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「まだ止みそうもないな」
教室を出たあかねは、廊下側の窓から校庭を眺めて呟いた。
雨の日はなんだか気が重くなる。
今は特に頼久のことも気にかかっていたし、お気に入りだった赤い傘もその頼久の家に置きっぱなしにしていたし、いつもよりも余計気持ちが滅入りそうだった。
土曜日の午後の校庭は雨のせいもあって、人影もまばらで、ただ時折強まったり弱まったりと、変化しながらも降り続く雨粒だけが踊っている。
こんな時間に校庭を眺めるのは久しぶりだったが、きっといつもならば、グラウンドやらテニスコートから生徒達の元気な声が聞こえてくるのだろうと思った。
このまま帰りに頼久の部屋に行ってみようか、それともやはり一度電話を入れたほうがいいだろうか?どうしようかと迷っているあかねの視界に、不意に赤い色が映り込んだ。
・・・・・・あれ?
よくよく見れば、校門の前に小さなひとだかりができている。
その中心には赤い色。まわりを取り囲む女の子達よりも、うんと背の高い男の人が赤い傘をさして立ち尽くしていた。
・・・・・・嘘、頼久さん?
「う、嘘だよ。な、なんで、だって私・・・・・・」
あかねの教室があるのは三階、その廊下から校門は小さくしか見えないが、頼久の姿を見間違えることはない。もちろん、頼久のほうからはあかねの姿など見えないだろう。ここから叫んでも・・・多分、雨のせいで聞こえない。あかねは迷わずに、階段を駆け下りていた。
三階から一階まで一気に駆け下り、少し息が切れる。気がつけば、カバンも傘も何も持たず、靴さえはきかえずにあかねは昇降口を飛び出し、校庭の周囲に作られたコンクリートの小道の上を走り出した。
こんな雨の中に傘もささないで、頼久におこられてしまうかもしれない「風邪をひいてしまいますよ」って。呆れて笑われてしまうかもしれない「あなたはまったく」って。でも、頼久さんに怒られたい。頼久さんに笑って欲しい。
あんなに小さく見えた頼久がはっきりと見えてきた。まわりを囲んでいた子たちは帰ってしまったようで、灰色の景色の中に、ただぽつんと赤い色が落ちているようだった。
だんだん、だんだん近づいて、頼久もあかねに気が付き顔をあげる。
「頼久さーん!」
「神子殿っ!あっ、危ない」
雨の中を自分へと向かって走ってくるあかねに、咄嗟に頼久の口をついて出た言葉は『神子殿』だった。
あかねは息を切らしながら、頼久の差し出す傘の中に入った。
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