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頼久さん
私たち一緒にいられるんだね
これからはずっと
このまま二人きりで
永遠に
ずっとね

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闇の中にただ雨の音が響く。
夕方から降り始めた細かい線のような雨は、闇の侵食と共にその雨足を強め、今は他の全ての音を遮るほどの力強さで地面に打ち付けていた。
・・・寝付けない夜だった。
戦いは終わり、京に再び平穏な日々が訪れようとしている。
とうとう来てしまった・・・と、あかねは声にならない呟きを漏らした。
明日はこの世界に別れを告げる日。
いつかこの日が来ることはわかっていたけど・・・
あかねはこれまでの日々を思い出しながら、ぼんやりと雨の音だけを聞いていた。頭の芯に熱があるような奇妙な感覚に押し潰されそうだった。
疲れているのに、妙に冴えているような頭の奥の方に、ジャリ、ジャリと、雨に混ざって玉砂利を踏み締める音が響いた。
次第にあかねははっきりと覚醒していった。絶え間なく、しかも少しずつ大きくなるその音に不意に恐怖さえ感じる。
こんな夜更けに寝所に来る者は誰もいない。
それは藤姫であってもだ。これまでであれば頼久が誰人も通さないであろう“龍神の神子”の寝所
・・・頼久さんはもう見守っててくれないのかな?
すぐに馬鹿な考えだったと自分を戒めた。
・・・見守ってくれてるわけないか、もう全て終わったんだもんね。
あかねは足音の主がまさにその頼久だなどとは露にも思わないでいた。あかねでなくとも誰が思えるだろう。あの頼久だと。
だから、足音が自分に近づいてくることを確信したあかねは、ありえるはずのない言葉を発してしまう。
「藤姫なの?」
だが、いくら、あかねが声を発しようと事態は何ひとつ変わらなかった。返事があるわけでもなく、足音が止まることもない。
依然として闇の中にはただ大きくなる足音だけが響いていた。
一方、頼久はあかねの部屋に向かって、玉砂利の上を一歩ずつ、しかし確実に足を進めていた。
----神子殿・・・・あなたを失いたくない。
あなただけが欲しい・・・そのためならば、たとえこの命さえ捨てることも厭わない。
今宵、頼久はこれまでどおり邸内で夜警をしていた。
本来であれば、既にその必要はなかったはずだが、今もって頼久はあかねの傍を離れたくなかった。
そして、ある一つの想いを遂げる決意の元、離れることはできなかった。
夜警をはじめてしばらく経った頃、あかねの部屋の灯りが消えるのが見えた。それを合図かのように頼久はあかねの部屋に向かう。
今夜ばかりは挨拶も何もいらない。
----ただあの貴き人、我が主、
そして誰よりも愛しき人のもとへ・・・・
寝所へと足を踏み入れると、その闇の中央にある夜具に小さな膨らみが目に入った。
頭まですっぽりと覆われ、眠っているのかどうかすら判断することはできない。
いつもであれば「恐れ入ります、神子殿、頼久が参りました」と声をかけるはずである。が、しかし今夜の頼久にとってそんなことはどうでもいいことだった。そこにあかねが横たわっていれば、いやあかねの身体が存在してさえいれば。
思い切りよく布団を引き剥がし無言のまま細い腕を掴むと、おもむろに自分の胸へと抱きいれる。
あかねは恐怖に震えながらも顔をあげ、瞬間その恐怖は驚愕に変わってゆく。
「え?え?頼久さんなの?どうしてここに??頼・ひさ・・・あっ」
その先は声にはならない。頼久の唇によって封じ込められたのだ。
骨ばった大きな掌であかねの頭を押さえ、鍛えられた腕で身体全体を抱きしめながら頼久は強引に唇を奪っていった。自分の雨に濡れた冷たい唇があかねのそれによって熱をもっていくのがわかる。
----あぁ、神子殿・・・・・
きつく閉じられたあかねの唇を舌で簡単にこじあけ、歯茎を執拗になぞる。舌は休む間もなく綺麗に並んだ歯列を割って、あかねのそれに絡めようと口内を蠢く。
「んっ、んっ・・・」
苦しげな表情のあかねの口元からほんの少し洩れる声に身体の芯が燃え上がり、頭を押さえた手はそのままに、空いたほうの手を胸元から腰にかけて降ろしてゆく。
華奢でありながらも、緩やかな曲線を描く、まぎれもなき女の身体であった。
----神子殿、今宵、私は罪を犯します、あなたを壊してしまう・・・
頼久は子供のように何度も繰り返しこの愛しき主の身体を飽くことなく愛撫し続ける。
それはまるであかねの存在を確かめるかのようにゆっくりと優しく。あかねの腰が左右に動く。その動きは頼久自身にも衣ごしにつたわってきて、まるで己の行為に感じ入り、むずがるかのように思えた。
----もっと、もっと私を感じてください、神子殿
刹那、理性が頼久の手を止めた
----今ならまだ間に合う。
ただの戯言として神子殿に平伏し、己の想いを押し殺し、この先二度と、そう永遠に神子殿の前に姿を現さなければ。
そうだ、神子殿は明日、元の世界に戻られる。そのうちきっと今宵のことは忘れて幸せになられるだろう。まだ間に合う、大事な人を壊してしまう前に、傷つけてしまう前に・・・
しかし、かたくなに拒否し続けるあかねの、まるで卑劣な輩を見るかのごとく、自分を射るように睨み付ける視線を前にすると、頼久のそんな思いは簡単に砕け散った。
「ふっ・・・」一瞬のため息の後、今度は頼久の心の奥に眠らせていた
雄の本能とも呼べる欲望が一気に目覚めた。
----神子殿。
貴女を傷つけてもなお、自分を刻み込みたい、否、壊してさえ己のものにしたい。
頼久は急にあかねの身体から離れた。
これまでに見たこともないような、冷ややかな目で笑いながら、あかねの頭を掴んでいた手に力を込め、髪を引っ張りあげることで、その顔を自分のほうへと向けさせた。
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