シスター・アンジェリーク 6







 アンジェ、と呼ばれたあの夜から、私はそれまで欠かすことのなかった懺悔をしなくなっていた。
どうしてなのかは、自分でもよくわからないけど、もしかしたら、もうあきらめたのかもしれない。それとも・・・・私の心が主よりも、レヴィアスを選んでいたのかもしれない。
 

 わからない。
 自分でも自分が信じられない、でもそれが現実の私・・・・・・







 この頃の私は、もう数え切れないほどのレヴィアスとの夜を重ねていた。
 そして今夜も私は礼拝堂へ行く・・・・・・・彼に犯されるために。


 彼に命じられるままに四つんばいになると、祭壇に腰掛けた彼に見せるように腰を高くあげる。
彼は指で・・・・・足の指で私の脚の間を弄りまわし、器用に花芯を摘み撫でまわした。

「んっ・・・・・・ぁぁぁっ・・・・・」
「そんなに気持ちいいのか、アンジェ」
「っ・・・そんなっ・・・・・・そんなこと・・・な、いっ・・・・・・」

 私は嘘つきだ。

 本当はただ見られているだけで、感じてしまっていた。
そして、足の指で弄られるという、あまりにも屈辱的な行為に・・・・・それを受け入れている自分に感じていた。

「うぅっ・・・・・」

 声が洩れないように唇を噛み締めるが、それは無駄なことだったとすぐに気付く。
私の腕も脚も、身体全体が震えて、感じていることを克明にレヴィアスに伝えていたから。

「次はどうして欲しい?アンジェ」

 ・・・・レヴィアスが欲しい。私を支えてくれる熱い塊が欲しい。

ただ無言でレヴィアスを見上げる私の顎に彼は手をかけると「アンジェ、欲しい物は自分で手に入れてこそ価値があるんだぜ」・・・そう言って、すぐにまた手を離した。

 レヴィアスのシャツのボタンに手をかけるが、その指先が震えて上手くはずすことができなくて苛立つ。
 いっそのこと引き千切ってやりたい衝動をおさえ、シャツをあきらめジーンズのいくぶん大きめなボタンへと目的を変える。今度は上手くはずすことができた。
そのままジッパーを下ろして、下着の上から舌を這わせる。布の上からの刺激に、いくぶん大きくなっていくそれに、私は急に我慢ができなくなって、ジーンズごと下着を降ろした。

 目の前で熱を帯びてゆくレヴィアスに手をそえると、その先をそっと口に含み、そして呑み込んでいった。
 私はまるで菓子を与えられた子供のように、レヴィアスを咥えて、舌を絡ませては、存分に味わう。

 レヴィアスが次第に熱く、硬さを増してゆき私の口の中を圧迫する。
それは喉につかえて私を涙ぐませる。それでも私はレヴィアスを離したくなかった。それなのに、不意にそれは彼によって私の口から抜き出された。

「乗れよ」

 レヴィアスが祭壇の上に座って、私に言う。

 これは命令だと・・・・・私は思う。

 今にいたっても、自分の意思ではないと自分に嘘を付く。

 レヴィアスに跨り、垂直にそそり立つ彼自身を手をそえると、私はその上に腰を沈めていった。

「はぁぁっ・・・・・・・・んんっ・・・・・・」

 ・・・・・あぁ、今、私はレヴィアスに満たされている・・・・・

「こんなんじゃ、物足りないだろう?」

 レヴィアスが私の腰を掴んで突き上げると、私はもう声を殺すこともできずに彼の首に腕を回した。そして、自分の胸へと引き寄せると、そのくすぐったい黒髪を指の間に挟む。

「ああっ・・・・・・あっ・・・・・レヴィアス・・・・・・・・んっ」
「ほら、いいんだろ?いけよアンジェ、俺の上でいくんだ」

 レヴィアスの息が乱れていた
 ・・・・・・・レヴィアス・・・・あなたも感じてるの?・・・・ねえ、レヴィアス・・・・・

 彼の腕の中で、何度も何度も私は突き上げられる。
もう限界なのにレヴィアスはやめようとしない。もう奥まで達しているのに、彼はレヴィアスはもっともっと奥へと私を貫いてゆく。

「あぁぁっ・・・・・・やぁぁ・・・・・・イクぅ・・・・・・・っっ・・・・・・・・・」

 私は自分でも聴いたことのないような声をあげて・・・意識を飛ばした・・・・彼の上で。




 その次の日からしばらくレヴィアスは教会に帰ってこなくなった。

 私は少しホッとした、元の生活に戻れるのだと・・・・なのに、どうしてだか何かが足りないような気がしてレヴィアスのいない間、私はずっと不安に駆られては涙を流した。
それでも、私は祈ることも懺悔をすることもせずに、流れた涙のぶんだけ乾いた心を持て余していた。


 レヴィアスが帰らない日はこれまでにも何度もあった。
 これまでは心の底から安堵し、神に感謝の祈りを捧げていた。それなのに、今は、今の私はレヴィアスを待っている。レヴィアスを心配している。

 私は今になって初めて彼のことを何も知らなかったことに気付いて意味もなく慌てた。だから再び、レヴィアスの手でドアが開かれた時、私は心を躍らせた・・・自分の生活がまた乱れていくというのに。


 レヴィアスは帰ってきても、挨拶一つするわけでもなく、さも、つい5分前までそこにいたような顔で椅子に座る。彼のそのやり方に無性に腹が立った。何か言ってやらなきゃ気がすまない。それなのに、その時、私の口から出たのは、自分でも全く予想もしなかった言葉だった。

「レヴィアス・・・・・・・もう・・・私に飽きたの?」

 レヴィアスの表情が変わった、驚いた瞳を私に向けている。でも、それはすぐにいつもの、あの特徴のある、冷たい笑みに変わる。いや・・・変える。

「飽きた女を抱く男がいると思うのか?っ・・・バカな女だ、お前は」

 今度は私が黙り込む。

「来いよ」

 レヴィアスが私の手首を掴むと、私の寝室へと歩いて行く。

「どっ、どうして?」

 レヴィアスが私の部屋に入っていくのを信じられない気持ちで見つめた。
だって・・・いつも私たちは礼拝堂で過ごしていたから。どうして?どうして今夜は私を部屋の中に連れてゆくの?

 後手にドアを閉めると、すぐににレヴィアスは私を抱きしめ、ケープをはずす・・・・・彼のこんな優しい手は初めてだった。

「アンジェ・・・・・・お前が欲しい」

 何を言ってるの、今さら・・・・・だって、あなたはいつも・・・・・・

 レヴィアスの顔が近づいてきて、長い睫が頬に触れ、それから同じ場所に唇が触れた。彼の唇は、私の額に、瞼に、頬に落ちて、ゆっくりと私の唇にたどりついた。

 これが、私たちの初めてのキスだった・・・・。

 レヴィアスは私の修道服を脱がすと、私を抱きしめたままベッドに押し倒す。
彼の手は私の手を絡めとり、唇は首筋をなぞりながら私の肌に自分の印を付けてゆく。これまでに経験したことのない優しい愛撫に私は溺れて・・・そして溺れてゆく自分が怖くて必死で彼にしがみ付いた。

「ああっ・・・・・レヴィアス・・・・・・どうしてっ・・・・・・」

 レヴィアスを見ようとして、顔を上げると、視線の先に彼の優しい眼差しが飛び込んできた。

 ・・・・・どうして?どうしてレヴィアスは今日に限って、こんな優しい瞳を私にくれるの?ねえ、どうして?そんな顔で見つめられたら、もう、私・・・・・・自分に嘘が付けない・・・・・・

 レヴィアスの指が私の中で蠢く、その度に身体の奥から熱が溢れ、彼の指を濡らす。

「んっ・・・・・いやぁっ・・・・・・・あぁぁんっ・・・・・」

 いつもの彼からは考えられないほどの早急さで、私を求めている。
 レヴィアスの手が私の膝の裏にかかり、脚が彼の肩に乗せられる。私を思い切り開くと、レヴィアスは何かにせかされるように、一気に私の中に入ってきた・・・私の名を呼びながら・・・・

「くっ・・・・・んんっ・・・・・ああぁぁぁっっ・・・・・・」

 自分の身体の奥から湧き上がる声と、アンジェ、と呼びつづけるレヴィアスの声が頭の中で共鳴している。身体を捻る私を押さえつけるように背に回された腕は、強く、それなのに優しく私を抱きしめる。

「アンジェ・・・・・俺を好きだと言え・・・・・・俺だけだと・・・・・・・」

 レヴィアスが好き。愛している。心の底からそう思った。
 でも、私の口から出るのはレヴィアスへの答えではなく、言葉にはならない甘い悲鳴ばかりだった。レヴィアスに抱きしめられ、身動きのとれないまま、私は達して・・・身体の奥で彼を受け止めた。






 レヴィアスの暖かい腕の中で、その指を髪に感じていた。
 何度も何度も、私の髪を撫でるレヴィアスの顔を見るのが怖くて、私は瞼を閉じたまま彼によりそう。

 どのくらいの時間をそうしていただろうか・・・・・私はいつの間にかレヴィアスを・・・自分でも知らないうちに失くしてしまった、自分の身体の・・・心の片割れのように感じ初めていた。
ゆっくりとした時間が流れるレヴィアスの腕の中で、このままずっとこうしていたい。だけど、その願いは突然に破れた・・・・・彼は私から離れるとベッドから立ち上がり身支度を始めた。私は寝たふりをしながら、毛布の隙間からレヴィアスの様子を見つめていた。

 彼の支度が終わったらしい・・・・・

 少しの間、眠る私を見つめて、そして一つため息を吐き、ドアへと歩き出した彼に私は声をかけた。

「レヴィアス・・・・」

 レヴィアスが驚いて私を振り返る。

「なんだ、起きたのか」

 彼の名を呼んだだけで、次に何を言うべきなのかわからなかった私の代わりに彼が話しはじめる。

「アンジェ、お前にプレゼントがあるんだぜ、ほら」

 ・・・・今から出て行こうとしている人間がどうしてこんなに優しい声を出すの?・・・・

 足元に置いてあった箱を取ると、私へのプレゼントだと言ったくせに彼は自ら、箱にかかっているリボンをはずす。

 ・・・・いっそ、いつものように犯してくれれば・・・・・あなたを憎むだけですんだのに・・・・

「今のお前には、こっちのほうがよく似合う」

 それは漆黒のランジェリーと、そして同じ色をした大胆なドレスだった。

 まだ私は声を出せない。
 ・・・・ありがとうって言えばいいの?それとも、そんなの似合わないわよって言えばいい?ねえ、こんな時は何を言えばいいの?どんな声を出せばいいの?・・・・・・・

 無言のままの私に、口の端を上げて微笑むと、レヴィアスは告げた。

「お前を解放してやるよ、アンジェ・・・」

 彼が、レヴィアスがドアを開けて、そして出て行った・・・・・たった一言・・・解放してやるという言葉を残して。

 最後の最後まで私はレヴィアスに何も言えなかった。
 本当に何を言っていいのかわからなかった。18年も生きてきたくせに、いったい私はこれまで何をしてきたんだろう。

 今の私にわかることはとても少ない。一つは、私は彼を愛していたということ。
そして、もう一つは・・・・・・今度こそ彼は戻ってはこないだろうってこと。


 たったこれだけ。

 だけど、これが今の私の全てだった・・・・・・・・・・・・・・・・








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