シスター・アンジェリーク 2 |
「結局はあんまり変わらなかったかなぁ・・・・」 公園の中ほどまで来た時、アンジェリークは一人つぶやいた。 街を出る時には、まだかすかに残っていた夕日もすっかり姿を隠して、月が弱々しく照らすだけで外灯ひとつない公園内は闇に包まれようとしている。 ふいにアンジェリークは闇の中にたった一人取り残されたような恐怖にかられた。 「しっかりするのよ、アンジェリーク」 いくら自分で自分を励ましてみたところで、自らの足が落ち葉を踏むガサッという音でさえ怖い。 たまらずアンジェリークは駆け出した。しかしその足は聞きなれない声に再び止まる。 「あぁっ・・・・・やっっ・・・」 え?何なの今の声?アンジェリークの疑問をよそに、その声はさらに続く。 「お願い・・・・もっと・・・・あんっ・・・・・・はぁぁっ・・・・」 声とともに人が動く気配を感じ、アンジェリークは何かにあやつられるように、その声の主のもとへと足を進めると、アンジェリークの目に前後に揺れる銀と金が映った。 見てはいけないっ!!そう思っても瞳を逸らせない。 もう既に食い入るように見つめている。その場から逃れようと足を動かすこともできず、自分の身体がまるで大地から生えているようだった。 金の髪をした女が木にしがみ付き、後に突き出された腰にはスカートがめくれあがっていた。銀の髪をした男の左手が女の腰を掴み、空いている右手で残されている小さな布を膝まで下げる。 その瞬間「あぁっ」と、女は短い悲鳴をあげた。 男の手はそのまま動きを止めずに女のブラウスのボタンを飛ばし、左手は腰を抱えながら指先を下へと伸ばし脚を開かせる。 むずがるように身体を揺らしながら女は嬉しそうな声をあげ、男が再び女の腰を掴み自分のそれを女の脚の間にグイと近づけると、その声はより一層大きく、そして甘くアンジェリークの耳に響いた。 「あっ・・・ス・スゴイのォ・・・・・いいっ・・・・・ああぁぁっっ・・・・!」 男が激しく腰を前後させると、女の身体もそれに応じる。 真白い乳房が前後左右に揺れてアンジェリークは一瞬「教会の鐘のようだ」と思わず凝視してしまう。 男の手が女の腰を離れ、たわわな鐘に伸ばされ、その突起を摘み上げる。 「はぁっっ!!だめぇ〜・・・・・んっ・・・・・・」 アンジェリークは背中に電気が走ったように身体をビクンとさせた。 どうしてだか自分の胸の先が痛いような感覚に襲われ、身体が熱を持ち始めていることに気付いた。 その熱さに眩暈さえ感じるが、それでもアンジェリークは二人から目が離せない。 クチュッ、クチュという湿り気のある音と、激しく肉のぶつかり合う乾いた音。そして決して悲しくて泣いているのではない女の泣き声。 それらがアンジェリークの意識を支配して、彼女の瞳を釘付けにしていた。 「だ、だめだわ、ここにいたら。私・・・・・・いかなきゃっ」 アンジェリークが自分を取り戻し、身体を捻ろうとした、その時・・・・・・・いきなり、銀の髪の男が振り返り、アンジェリークの顔を舐めるように見つめて、想像以上に形の良い薄い唇の端を微かに上げて・・・笑った。 ・・・・腰を動かすのを止めもせずに。 男の笑みに弾かれるように、アンジェリークは駆け出した。 その夜はどうやって教会まで帰って来たのか、はっきり覚えていない。 しかも、永遠とも思われた、公園での時も後から時計を見たら、ほんの10分にも満たないことにアンジェリークは驚いて、思わず「逢魔が刻」という言葉を思い出していた。 そして、この夜からアンジェリークはさらなる禁欲生活を自分に強いるようになった。そうしなければいけないような気がしてならなかった。 アンジェリークの一日は主への懺悔から始まり、そしてまた懺悔で一日を終える。 今夜も、信者が全て帰ったことを確認して礼拝堂に一人来ていた。 アンジェリークは硬い木の床に膝をつけ、頭を垂れると小さな声で懺悔を始める。 「主よ、どうかお許しください。罪深き人間を。罪深き私を・・・・・・・・・」 アンジェリークの声が一瞬止まる。だが迷いを振り切るように再び口を開いた。 「主よ、私は、私は・・・・・罪を犯しました。私は、あの夜のことをどうしても忘れられないのです。悪魔が私に見せたあの淫らで罪深い男女の姿を・・・・・・・・ああ、主よ、どうかお許しください。悪魔に取り付かれるのもまた、私の業が深いゆえに・・・・」 アンジェリークが先を続けようとした時、急に背後から音がして、振り返ると大きく開かれた扉から男が立っているのが目に入った。 ・・・・・もしかして・・・・聞かれてた? 驚いた彼女の瞳に映ったのは黒い髪の男。その睨み付けるような視線にたじろぐ。 「・・・・・・・悪魔!?・・・・・・・・」 男は一歩ずつ、こちらに向かってに近づいてくる。ゆっくりと一歩ずつ。 だがアンジェリークはその場から動けなかった。 足音がだんだんと大きくなり、彼女の身体にわずかに息がかかるほどの位置で止まった。 「悪魔のせいにするとは、ずいぶん図々しい奴だな」 「なっ・・・何を・・・」 この人・・・? アンジェリークは、この顔をどこかで見たことがあるような気がして必死で記憶の糸を手繰り寄せていたが、どうしても思い出せない。 確かに、自分の記憶の中に、この男の存在が刻み込まれているはずなのに。 これまでに黒い髪の男など見たことはない。信者さんなのかしら?でも、こんな時間に? それとも・・・・・・・やっぱり・・・悪魔・・・・・?まさかね。 「あ、あなたは・・・・・どなたですか?」 ・・・アンジェリークの声が震える。 男は、その声を無視して、じりじりとアンジェリークの身体に自分の身体を近づけ、大きな手でアンジェリークの体に触れた。 彼女の自由を奪うように両腕を掴むと、両腕から肩へ、肩からうなじへと手を這わせアンジェリークの肌を修道服の上から犯してゆく。 そして、柔らかい頬を両手で包むと、アンジェリークの震える唇に親指をあてがった。 「なっ、何をっ」 「俺の顔がわからないとはな・・・・フッ・・・あんなに熱い目で見つめていたくせにな」 男がアンジェリークを見つめ一瞬笑うと、その整った薄い唇の端がキュッとあがった。アンジェリークがその特徴のある口元に気付き驚愕と羞恥で顔を真っ紅に染める。 男はすぐに表情を引き締めると、アンジェリークの顔にかかるケープを指ですくいながら言い放った。 「・・・・・シスター・アンジェリーク、お前は俺の女になるんだ」 |
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