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シリーズ 絆
Zephel & Luva 守護聖退位〜未来 第二話 ―セピアの人― |
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「ゼフェルさ〜ん!!ちょっと教えて下さい」
「おいおい、おめぇ人に頼りすぎじゃねーか?ちょっとは自分で考えてみろよ」
工房には数十人のエンジニアがいるってのに、あいつはすぐに俺に質問をしてくる。俺がここに来た時は、ムキになって人に物を尋ねなかったもんだぜ…。
新人エンジニアのドリューは特に俺になついてるが、さして俺の助けも必要ない事まで俺を呼ぶ癖がついているようだ。
「このアタッチメントの扱いが難しいんです。ゼフェルさんの開発したものですよね」
「お〜いぃぃぃ〜。頼むぜドリュー。左のスイッチから付けろって前にも教えたろ?このボケ頭」
「ああ!!そうだった!す、すみません、右から回してた私」
ドリューは工房で唯一の女エンジニアだが、「女っぽく」ないところが妙にイイ感じだ。外見は、まあ「そこそこ」可愛い。
こいつは俺を良く遊びに連れ出す。積極的…と言うのか…けど、俺も結構嫌いじゃない。
工房の他の奴らに気付かれないように、ドリューが俺に近づき耳打ちする。
「今夜あたり、一杯どうですか?研究室の同期がゼフェルさんを呼べってうるさいんですよ」
「おまえ〜、またかよ。飲むのはいいけど、俺を研究院中のやつらに全部紹介する気か?本館だけで1500人いるんだぜ」
「へへ〜!だって見せびらかしたいんですもん。伝説の発明家ゼー様を」
俺はドリューのデコを小突いた。
「伝説って言うな!!こんなに若くてピンピン生きてんだから…」
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聖地を出て数週間、主星をひとり見て周った。
文明の進み具合もかなりのもんで、さすが聖地が置かれている星だと思った。
自分の故郷に帰ろうか…とも思ったが、この先メカニック系の仕事をしたいという気持ちもあったから、それには主星が一番なのかも知れないと俺は判断した。
どこにいても結局同じなら、最先端の組織にまずは籍を置くのも良い考えだと…。
結局、政府機関アークを通した、王立研究院からの誘いを承諾した。
もちろん俺は科学者でも物理学者でも医学博士でもないから、「研究員」としてでなく、研究院のシステムのエンジニアリングを担当する部署である工房に入った。
ただ所属してれば良かったんだが、入職三日目に「大発明」をしちまったんだ。
それは100年の時を経ても尚、実現しなかったプログラムの作成で、これが出来て研究員のシステムが一気に改革されただけでなく、宇宙全土に好影響を与えるものとなった。
俺は一躍「伝説のエンジニア」と謳われた。自身の思惑とは別のところで…。
(静かに、好きな事だけやって暮らしたかったんだけどな)
まあ、仕方ない。ここは宇宙最大の組織である「王立研究院」なんだから。
俺の発明がメディアで宇宙全土に伝わった時、聖地からメッセージが届いた。
発明者の名も顔も公表していないのに…だ。
もちろん俺が元守護聖だという事は絶対に内密だったから、花束やメッセージの送り主の名はストレートではなかった。
あなたを誇りに思います。愛を込めて…
アンジェ,ロザリア&サクリアガイズ
……ったく、何がサクリアガイズだ。
どうせあの安直なアイデアはランディあたりだろ。
だが…とても…あの時は…嬉しかったぜ。
ひとつだけ気になった事。
あの「サクリアガイズ」の中に、「あいつ」がまだいたのかどうか…。
俺が聖地を出たすぐ後に、あいつも下界(した)に下りてたはずだ。
普通の男に戻って三年。
――あいつの事を思わなかった日は…なかった。
どうやって…どこで…暮らしているのか?
あの時の突然の決別への不満も、今は遠い記憶の彼方になった。
今は…知りたいだけだ。
(ルヴァ・・・あんた、楽しく暮らしているか?)
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伝説にされちまった俺はかなり特別待遇で、勤務時間が特別定められていなかった。
工房のトップの親父でさえ、俺には一目置いてる。何となく良い気分だ。
俺の考案したものは全て院のシステムに使われて、俺は実質研究院という組織の幹部クラスだった。でも、俺にはさほど興味ない事だ。
(俺は好きな仕事が出来るだけでいいんだ)
今夜は飲み会の約束を無理矢理取り付けられたもんで、午後二時に工房を出て自宅に戻る。
午前中夢中になって、システムの修理に躍起になって汗まみれだったから、シャワーを浴びたかった。
研究院からエアカーで5分の場所に俺のアパートはある。
ガラス張りの高層ビルの最上階のペントハウス。
もちろん俺が選んだわけじゃない。研究院が支持した場所だ。
部屋探しなんて面倒だった上に、このペントハウスにはなかなかの設備があったものだから、ここで手をうった。
ひとつは、防音設備の整ったアトリエだ。家で趣味のメカを作るには持ってこいの場所。
そして、もうひとつ。
部屋数はひとりでは多すぎる5部屋。まあ、聖地の館には規模は劣るが…。
吹き抜けている中二階のスペースが壁をぐるりと周る書庫になっていた。
(ルヴァの執務室にも似たようなのがあったな)
俺は三年かけて各種の本を揃えたんだ。
宇宙化学の本。地質学の本。歴史小説…。
もちろん半分も読んじゃいない。
読むためにそろえたんじゃないんだ。
俺は………………
いや、なんでもない。ただ・・・そうしたかっただけだぜ。
――ただ書庫に本をびっしりと。
勢い良いシャワーを浴びると、キッチンでミネラルウォーターを飲む。
この時間が好きだ。
三年の間に付き合った女も何人かいた。
けっこう深く付き合って、一緒に暮らしてもいいかと思う程気に入ったヤツも…。
けれど、誰もこの部屋に似合わなかったし、俺の空気になじむヤツはいなかった。
寂しい…と、思ったことはない。ただ、なんとなく空虚だと感じる事がしばしある。
けれど、人間なんてみんな似たようなもんだろ?
ひとりで生きてりゃ良い時も悪い時もあるし、孤独でいたかったり、ぬくもりが欲しかったり。
けど、ルヴァの言ったように人と向き合うという事は忘れてない。
あのどん臭い男が、俺に言った最後の説教だしな。
いつの間にか俺は、初めて会った時のルヴァの年齢になっていた。
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ドリュー達と待ち合わせた店は、おしゃれで人気のある通りにある。
最近はエアカーなしでプラプラと町を歩く事もある俺は、今夜もそうして目的地に向かっていた。
ここのところ日が長いから、夜の7時でもまだまだ明るい。
町を行き交う人間達を見る。
赤・青…と色とりどりの髪をした奴ら、ご丁寧にコスチュームまでカラフルで、そこら辺一体が鮮やかなカラーフィルムのようだ。
ただし、歩き方がいまいち馴染めない。
そんなに急いでどうすんだ。今からじゃ行けるとこなんて限られてるぜ。
家に帰るか、遊びに出るか・・・そんな事だけなら、もっと落ち着いて歩けよ。
おまえらは、みんな護られてるんだぜ。
焦らなくたって、聖地はおまえらを見てる。
いつもいつも・・・おまえらの平穏を願ってるんだ。
結構いろいろあるのかも知れないが、ゆっくりと動いたって損はしないんだ。
何か緊急な事態に陥っても、まず、ゆっくり考えても遅くはない。
――そんな男を俺は知ってる。
多分…親よりも誰よりも…俺を思ってくれたあいつ…。
(なんで、あいつの事ばかり考えちまうんだろ?へんな日だぜ)
待ち合わせに良く使われる広場を通りかかった。
どこの場所でも見かけるカラフルな男と女達が数え切れない程、ウロウロとしていた。
だが、その一角に不釣合いな木製のベンチがあった。
今時木製のベンチなんか、古代の遺物だ…。
――突然!!!
そのベンチが俺の目に懐かしいセピアカラーを映し出す。
旧式だが高価そうなスーツケース。
信じられない程姿勢を正してベンチに座っている男。
誰が通り過ぎようが気にする様子も無く、本を読み入っている風変わりなターバン。
俺は目を凝らす。
心臓がトクントクンと鳴り始める。
(夢…か…?)
男の前を走り過ぎようとした子供がつまづいた。
「あ〜、大丈夫ですか?ケガはありませんか?」
そう言って、本を放り出して子供のヒザの汚れをはらう男。
「ごめんなさい。ありがとう」
子供が礼を言う。
「ターニャ!」
走りよってきたのは母親だろう。
男から子供を奪うように、礼も言わずに去っていった。
(あのバカ母が…)
ヤツは立ち去る親子を不思議そうに眺め、やがてニッコリと微笑み、読みかけの本に手を出す。
(どうせ、どこまで読んだかわからずに慌てるんだろ?)
案の定、本をパラパラめくり、またページを戻し、その作業を繰り返す。
その慌てぶりに通りすがりの若い奴らがせせら笑う。
不信な男とか変わった男だと思っているんだろう?
けど、間違うなよ。そいつはおまえらとは違う。
いつもマイペースで、自分の事より人の事を心配する…
けれど崇高で知識の高い「大地を守護した男」なんだ。
おまえらの色で――そいつを染めさせはしない。
(ルヴァ……あんた……こんな場所に似合わねぇよ。こんな所にいちゃだめだ)
俺はまっすぐにベンチへ進んだ。人ごみはますます多くなる。
(声を掛けて…それから……それから…)
「ゼフェルさ〜ん!!」
ドリューだった。
「シルバーヘアーは目立つから…。ずっと向こうからわかりました。特別今夜はカッコイイですね。なんか…ますます惹かれちゃいます、自分」
ニコニコして俺を見つめるドリュー。
一瞬気を取られた俺だが、次の瞬間ベンチ方向を見た。
そこには…誰も座っていなかった。
木製のベンチだけがセピアに染まっていただけで…。
ほんの一瞬だったのに…。
(夢だったのか?)
「ゼフェルさん、どうしたの?」
ドリューの声にも俺は動じなかった。
夢なんかじゃない。確かにあいつはそこにいた。
転んだ子供を起こして汚れをはらっていたアイツが…。
出逢ったのに…やっと逢えたのに…一瞬だけなのかよ!!
アイツはすぐ目の前にいたのに!!
今俺にはドリューも町を行く奴らも関係なかった。
声を出して…泣いてみたかった。
子供みたいに泣いてみたかったんだ。
俺は目の前のドリューを抱き締めて泣いた…。
「ゼフェルさん…ゼフェル…?」
驚いたろうドリューも、しばらくすると俺を力強く抱き返す。
「何だかわからないけど光栄です。私の胸で泣いてくれるなんて…」
ドリューの体は温かかった。
しばらくの間俺もドリューもそこから動かなかった。
カラーな夜が俺にひとときのセピアの夢を見せたんだ。
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「ゆうべは悪かったな。飲み会一緒にエスケープさせちまって」
「いいんです。今回は友情より愛情を選んだんです、自分」
研究室から呼び出された俺達は、長い廊下を歩いていた。
俺は夕べ落ち着いたバーで、ドリューと2人だけで飲み明かした。
俺が泣いた理由など一切問いただすこともないドリューに、俺は惹かれてた。
けれど、そうそうすぐに恋愛になんて発展しないぜ。
なんてったって俺はへそ曲がりだからな。そうだろ?.ルヴァ。
――きのうのアイツは幻なんかじゃない。決して違うんだ。
ルヴァはきっとこの街にいる。俺のすぐ近くに絶対いるんだ。
だから俺はルヴァを探す。見つけ出して、こう言ってやるんだ。
『オメ−、俺の事ずっと見つめてるって約束したじゃんか』ってな。
俺はこうと決めたら必ずやる。
わかってるよなルヴァ、あんたならきっと。
「ゼフェルさん、院の主任の呼び出しって多分あれですよ」
「はっ?あれって何だよ」
「ああもう。ゼフェルさんって世間話に興味なしだから…。あのね、砂漠の惑星から、考古学の天才学者を招いたんですよ」
「天才?俺様の他にそんな奴がいるのかよ!」
俺はハハハと冗談めかした。
「ええ、それがね。知識の泉を持ってるって言われる程の人らしくて、ターバンを巻いた変わった人物だそうなんですよ。事務の女の子に聞いたら、結構素敵な人だとかで…」
俺の足がぴたりと止まる。
呼び出されて、目指したドアは目前だ。
今の心境はうまく表現しづらい程。
けれど俺の口元がほころんで来る。
やっぱりな…・・・。すぐ近くに居やがった。
俺の大切なもの。
足取りも軽い俺はノックもせずにドアノブを握り、その新しい未来を開くんだ。
あいつのいる…
ルヴァのいる明日への…
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シリーズ 絆 第二話 ―セピアの人― END
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