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シリーズ 絆
Zephel & Luva 守護聖退位〜未来 第三話 ―慕情の砂― |
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夜の空に散りばめられた星達。
それはあたかもジュエリーのように、私の瞳を輝かせます。
あの星のひとつひとつに人々の日常があり、植物が息づいている
この瞬間にも、消え往く星、生まれ来る星が存在している事を私は知っています。
星というものは何と不思議なものなのでしょうか。
聖地で見た星と同じものを、今ここで眺めているというのに、輝き方も色も異なっています。もしかするとそれを眺める私自身が、変化していったからなのかも知れませんね。
星の運命を見守る場所で、気の遠くなる程の年月を過ごしていた自分が、今は夢のようです。
「ルヴァ先生〜!」
はぁはぁ…と、息を切らしてイザーナが走って来ます。
「先生ったら、こんな所にいらしたの?お夕食までには必ず帰ってねって、あれほど言ったのに。」
「ああ、すみませんねぇ、ついつい星を見ていたら…」
「時間を忘れた…でしょ?わかりましたから早く帰りましょう。我が家の天使も待っていますから」
我が家の天使…。そうですね。何にも変える事の出来ない私の宝です。
差し出すイザーナの手を握り、私は家路につく事にしました。
聖地に別れを告げて、私は後任の地の守護聖クウェールの故郷の土地を訪れました。生まれた土地へ一度帰ってみようと思っていた私でしたが、ふとある事を思い出したのです。
あれはクウェールが聖地へ来て間もなくの事でした。
『クウェール、あなたの国でしたかね?蜃気楼が鮮やかで有名なのは…』
『ええ、【慕情の砂】の事ですね。僕も一度しか見たことはないのですけれど』
『な、なんだ?その慕、慕情って』
その頃私の館に、頻繁にゼフェルが居着いていました。
人みしりな彼には珍しく、クウェールとは気があったようでした。
『見てみたいものがすぐ目の前に現れるという蜃気楼なんです。すぐに思いつくものが対象ではなくて、潜在意識の中に眠っているものが幻影となって映し出されるんです。それだけではないんですが…』
『私も残念ながら見たことはありませんが、文献にはこう書かれています。その映像が、色鮮やかであたかも現実そのものである…と』
『ふ〜ん、すげえんだな。どういう原理で成り立ってんだろう?何かの科学反応が起こるってやつか?』
ゼフェルは科学にも興味のある人ですから、こういう質問に目を輝かせていました。
『はい、詳しくは分析されていないんですが、数年に一度ある季節のある一定の時間にだけ起こる現象ですから、分析がむずかしいのです。おそらく砂と風の微妙な比率が関わってくるものと思われます』
『ねぇ、ゼフェル。解析よりももっとロマンティックに考えてはどうですかねぇ?』
『ふん、陛下やマルセルじゃあるまいし…』
私もクウェールもその場では笑っていました。
しかし、退任してふと「慕情の砂」とクウェールの故郷というふたつのキーワードが思い浮かびました。
その土地は砂漠と都会が見事に融合された、私の故郷の星の中でも最大の発展国でした。
何のあてもない私でしたから、まずは聖地を出る時にクウェールから託されたものを家族に渡す役目を果たそうと思ったのです。
クウェールの実家は代々学者の家系で、彼の父親は考古学者で国立大学の学長でした。
博士は立ち寄っただけの私に最高のもてなしを施してくださり、大学や地質調査などに同行を求めて来ましたので、興味大有りな私はついつい長居をしてしまったのです。
クウェールに手渡されたものは、聖地で写した数枚の写真(私と撮ったものも含め)と手紙でした。
後々知った事ですが、彼はその文面の中に私が地の守護聖の前任者であり、知識の泉を持っている人間だと書き記したそうです。
彼の父親が私を手離さなかったのは、そういう事にも関係していたのでしょう。
『それだけじゃないわ。父はクウェールと入れ違いで訪れたあなたが、他人とは思えなかったんです。私だってそうだもの』
そう言ったイザーナはクウェールの姉で、とても聡明で美しい女性でした。
私自身がわけのわからぬ内に、あれよあれよという間に大学教授の肩書きが出来てしまい、なぜかわからぬまま、遠方より私の講義を聴きにくる人々、私と面会を求める人々が押し寄せる日々が始まりました。
目まぐるしく忙しい日々の中で、私を支えてくれたのはイザーナだったのです。
『先生、少しお休みを取らなければ…。精神的にマイってしまいますわ。我が家の所有する別荘へ参りませんか?私もメイドもお供いたしますから』
『イザーナ…、ありがとうございます。でも、あなたを同行させるのはお父上がなんと仰るか…』
『まあ、大丈夫ですわ。これは父の提案なのですもの』
クウェールの去った後に残った大切なひとり娘だというのに、私に預けるなんて…よほど信頼されているのか、または…男として危険性がないと思われていたのでしょうか?
少し心外ですね、アハハハ。
別荘は「慕情の砂」の出現ポイントの砂漠に近い場所でした。
これには私も喜びましたが、いつ訪れるかわからぬ幻影をじっと待つ気もありませんでした。
その土地は穏やかな風が吹き、忙しく精神的に疲れていた私を癒してくれる場所だったのです。
退任して一年の間に何とたくさんの仕事をこなして来た事か…。
「先生はここで何も考えずに疲れを癒してくださいね。父からの伝言です」
クウェールの父上は、私を本当の息子のように扱ってくださいました。私は既に30歳を越えていましたから、とても可愛い息子とはいえませんでしたが…。
夕日が別荘のリヴィングを赤く染める時刻。
私は籐の大きな椅子に身体を預けて、目の前のイザーナと何気ない会話をしたのです。
「私は未だに講義は慣れません。どうも人前で話す才能はないようです。講義内容が好きな分野なので何とかやり遂げてはいますけれどね…」
「でも、若い生徒さん達といると楽しいでしょう?皆あなたを尊敬していますわ。先生は今じゃ、星中の学者やその卵達のあこがれの存在ですもの」
「はぁ〜…。どうしてそんな事になったんでしょうかね。いくつかの遺跡の発見とちょっとした古代語が読めるというだけで…ね」
「先生ったら、あの土地に遺跡が存在するなんて考古学者は今まで知らなかったんです。それだけでも凄い事なのに、今宇宙で誰も読めない古代語をすらすら読めるなんて、注目を浴びないわけがないでしょう?」
私が守護聖になる前には、たくさん古代語を理解する人はいたんですけどね…。
私はやっぱりゼフェルの言う「古代の遺物」「生きた化石」でしょうか…ね。
ゼフェル……
なぜかこの名前を思うだけで、胸が締め付けられます。
聖地の門の前に失意で立ち尽くしたあなたを…忘れられるわけがない。
私と一緒に旅立つと信じて疑わなかったあなた…を。
ゼフェル…あなたは私の大切な、大切な【おとうと】。
あなたが私をもしや恨んで…嫌ってしまっていたとしても、私はあなたを心から愛していますよ。
今も、この先もずっと…。
「先生?」
イザーナが私の表情に気付き、声をかけて来ました。
「先生は時々そんな風に何かを思って、目の前にいながら遠いところにいらっしゃるみたい。何だか私とっても寂しいんです」
「イザーナ…、すみません。あなたとお話しているのに…ねぇ。私は本当に気の利かない…」
「違うの。私を見て欲しいからじゃないの。少しでも…先生の心が軽くなるお手伝いがしたいだけ」
そうですね、イザーナ。私はずっとずっと思っていました。
後悔は決してしたくないと誓ったはずなのに、ゼフェルへの思慕がいつまで経っても和らがない。
あなたには…お話しましょう。私の胸の中にあるたったひとつの苦しみを。
地と鋼の守護聖の交代が同時だった事には、私もゼフェルも驚いていました。
『あははは…。すみませんねぇ、同時に退任なんて、なにか真似したみたいでねぇ』
そんな風に私は笑い、ゼフェルは呆れていました。
――誰もが信じて疑わなかった。ルヴァとゼフェルは一緒に旅立つ…と。
実際私もそのつもりになっていて、涙の退任など考えもせず、ゼフェルとの新しい世界への旅立ちを密かに楽しみとしていたのです。
ゼフェルは新しい暮らしへの順応性に長けているし、一般常識はおそらく私が受け持つ役割で、私たち二人は楽しくやっていける…そんな気がしたものでした。
実のところ…
私が付いてなければ、ゼフェルは何をやらかすか…私が付いてなければ…
そんな風に思えてならなかった。
ゼフェルはゼフェルで、こんな事を言っていました。
『本ばっかり持ってくんじゃねーぞ。でも、あの『みそ』だけは忘れんなよ。主星に売ってなかったら例のスープが飲めなくなっちまうからな。俺様の好物だ』
聖地への決別の悲しみよりも、下界での新生活に夢を馳せていたようです。お互いに。
けれど私はある事に気付いてしまった。
ゼフェルが仲間にこう話しているのを、偶然に聞いてしまったのです。
『いつも小言ばっかりだったけど、あいつには苦労かけた。本当の兄貴みたいにやってくれた。だから、これからはあいつが楽しく暮らせるように、俺が頑張るんだ。好きな本だけ読んで暮らせるようにな。けど、運動不足はヤバイから、引きずってでもジムには連れてく。ヨボヨボになられたらかなわねぇもん』
それを聞いた瞬間、私は悟ったのです。
彼はもう…反抗的で、非常識で、暴力的で、生意気で…そんな少年から、とっくに卒業していた事を。
今いるゼフェルは、私を思いやる事の出来る優しく立派な青年だったのです。
(彼の輝ける未来に、私がいてはならない…)
私は目を瞑り想像しました。
エアバイクにまたがり、颯爽と出かけるゼフェル。
友人と夜の町に楽しそうに繰り出して行くゼフェル。
いつか…恋人と寄りそう日の曜日を過ごすゼフェル。
彼の日常に、私が在ってはならない。
静かに本を読みふける自分、ぼぅっと釣り糸を垂らす事に楽しみを見出す自分。
あまりにも違いすぎる二人のライフスタイルは、ゼフェルの負担になるのだ・・・と。
彼を保護しようと思いながら、その実彼に守られる自分になってしまう事が辛い。
大切な「おとうと」だから・・・自由に生き生きと自分の人生を歩んで欲しい。
そして、私は聖地の門の前で、彼を…捨てた…。
いいや、彼に依存してしまいそうな弱い自分を捨てたのです。
『もう、あなたのお守り役は卒業いたしましょう。お元気で…ゼフェル』
身を切られるほどに辛かった言葉。大切な者への決別の言葉。
駆け寄って…言いたかった。
身体には気をつけなさい。怒りっぽいのは直しなさい。
インスタントばかり食べてはならない。ちゃんとした睡眠時間を取りなさい。
一緒に行けなくとも、掛ける言葉はいくらでも、溢れるほどに私の頭に存在していたのに!?
私は彼を…突き放したのです。
『なぜ!?なぜにこんな事をなさったのです!?ついこの間まで、ゼフェル様と旅をする場所を地図でマークしていたではありませんか?ゼフェル様がお好きだからとスープの素もたくさんバックに詰めていたのに』
私ではなく、クウェールの方が嗚咽していました。
『クウェール、これで良いのですよ。私と彼は別々の人生を歩むのです。生まれた時も別々に産声をあげたのですから…ね』
それは私自身への慰めの言葉でしかなかった。
そして、その夜に更に恐ろしい事を思い出してしまいました。
どんなに後悔しても足りない事を…。
2度と会う事が出来ないのだという事を。
もう、あのナイーブな赤い瞳も、くせのついた銀色の髪も…全て星の彼方へと…
「なんて…可愛そう…・なの?先生も…そのゼフェル様も…」
「ああ、イザーナ!!あなたが泣く事はないのですよ。もう、昔話なんですから」
私の話はそんなにも悲劇的だったのでしょうか?
イザーナはいつかのクウェールと同じように号泣していました。
「本当に?本当に先生にとって昔話なんですか?」
「ええ、少し辛い思い出ですが、一年と言う月日がだいぶ癒してくれましたよ。私の『おとうと』は、きっと元気で飛び回って生きていると信じていますから」
「先生…」
イザーナは突然私の胸に飛び込んで来ました。
私は少し驚きましたが、彼女の香りがとても心地よかったので、そっと身体を抱き締めました。
「ルヴァ…あなたが大好き…。私があなたのもうひとりの『ゼフェル様』になりたい。ずっと傍にいてあげたいの。ダメかしら?」
「はぁ…。フフフ…積極的なんですね?意外に。ちょっと照れますが」
彼女と添い遂げるという、何故かそんな予感が私の脳裏をかすめました。
「傍にいてくれるんですか?」
「はい、ずっと…ずっと…私」
お嫁さんが…出来そうですよ、ゼフェル。
私も…捨てたものではないでしょう?
けれど、イザーナを貴方に会わせられないのが、辛いですねぇ。
どこに…いるんでしょうか、あなたは。
私とイザーナの娘がもうすぐ2歳になります。
名前は――【ゼフェリア】
安直な発想でしょうか?イザーナが命名したのですよ。
『ゼフェル様をずっとずっと忘れないようにね』
彼女はそう言いますが、私は彼を忘れません。忘れる事など出来るわけがない。
ある日、私は「慕情の砂」に偶然遭遇したのです。
休暇中に訪れた別荘で、ただの散歩を…と思い立ちましたが、どうせならと馬で砂丘まで足を伸ばしてみたのです。
それまで穏やかだった風が突然吹き荒れ始め、馬上の私の目をかすめました。
夕方に程近い時刻だったのですが、その一瞬真昼のように明るく照り返した太陽…。
砂の中に浮かび上がったその慕情の正体は…
ゼフェルだった。
決別したあの頃の彼が、私に向かって歩き出して来ました。
髪も瞳もそれは全て、私の大切な『おとうと』でした。
幻影とわかっていながらも、馬から飛び降りて駆け寄る私。
『ゼフェル…ゼフェル・…ゼフェール!!!!』
いけない!泣いてしまっては、涙で彼が見えなくなってしまう。少しでも長くゼフェルを見つめたいのに。
幻影の彼が少しずつかすんで行きます。
けれど彼は…一瞬、笑って唇を動かしました。
きっと・・・こう言ったのでしょう。
(オメ−、俺の事ずっと見つめてるって約束したじゃんか)
ええ…ええ、そうですとも。私はいつでもあなたの事を感じていました。なのにずっと自分を騙していました。
私はあなたに会いたい。それ見た事かと笑われても構わない。
(あなたを探しましょう。イザーナとゼフェリアをあなたに逢わせたい。)
だから、私は決心しました。
イザーナの父上を通して誘われている一件――王立研究院との共同プロジェクトへの参加。
主星に行けば、様々な情報を得られるでしょう。あなたの消息を得る事も可能かも知れない。
都会は苦手ですが、我がままは言ってはいられない。
大切な『おとうと』を探すためならば、私は…
こういう時のあなたの言い回しを使いましょうか。
「その為なら、ジュリアスにだってキスしてやるぜ」
旅立ちの為の荷物を作る私は、なぜか浮き足立っていて、イザーナはそれを見て笑っています。
待っていてくださいね、ゼフェル。きっときっと逢えるはずですから。
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こちらも、初恋と同じくらい好きだった創作です。やはり、わがままを言っていただきました。
アンジェリークの二次創作は「守護聖×アンジェリーク」だという思い込みがまだあった頃に
初めてこの作品を読み、震えた思い出が……。以来、ルヴァの時に厳しい愛情の虜です。
思えば本当に森果歩さまのお陰で、たくさんのキャラを好きになれました。
何度も何度も読み返したくなる作品の数々は、今も私の憧れです。
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