あの日、あなたは足元の草を摘むと、器用に小さな輪っかを二つ作り
一つは、私の指に、もう一つをあなたは大事そうに布につつむと
「おまじない」と笑って、着物の袂へとしまった。

「頼久さん、シロツメクサの花言葉って知ってますか?」

花言葉どころか、自分の指に絡んでいる草がシロツメクサという名であることすら知らなかった。

「いえ、存じませんが」
「あのね」

何か特別なことなのだろうかと、私はあなたがこれから紡ぐだろう言葉を聞き逃すまいと耳をそばだてる。

「あのね」
「はい」

……約束って言うんだって。シロツメクサの花言葉。

「約束、ですか」
「そうなんだって。私、頼久さんと何か約束ができたらいいな」

そんなこと。約束なんていくらでも、言ってくれさえすれば何だって約束をし、必ずや守り通してみせるのに。

「そういうんじゃないんだなぁ」

そう言って笑ったあなたの顔を、今も覚えています。

あの日から、いくらかの時間が流れ、いくつかの約束をかわした。
あなたと交わした約束を守ることはできるのに、自分に強いた約束はあまりにも安易に破ってしまうのはどうしてだろうか。
……オヤスミのキスが、頬から唇へと移ったのは確かすぐだった。
あなたの唇を食み、溶けるような味わいに飽きることはなく、一瞬歪んだ表情のすぐ後に、甘い吐息が追いかけるように落ちてくる感触に慣れることもできない。
想いはつのるばかりで、一向に冷める気配も見えず。
そんな私の告白に、あなたはあの日と同じような笑顔で「おまじないが効いたのかな」と言った。あの日の願いがかなったと。

「あのね」
「はい」
「もう一つあるんだって。シロツメクサの花言葉」
「もう一つ」

あのシロツメクサには、花言葉がもう一つあるという。けれど、それとおまじないとどういう関係があるのでしょうか。

「あのね」
「はい」

……私を想ってください。

「え、それが花言葉なのですか?」
「うん。だからおまじないが効いたのかも」

そんなこと。おまじないも約束も何も必要なかったのに。私の想いは伝わってなかったのだろうか?そう思うとほんの少し悔しかった。

「ですが、今日は私の誕生日ですので、願いがかなうとすれば、それは私のほうなのではないでしょうか?」

そう言う私に、「そういうんじゃないんだなぁ」と、あなたはふふんと笑うと、ゆっくりと私の首に腕を絡ませてきた。


ほら、やはり願いが叶ったのは私の方だと告げたいけれど、今はそれよりも先に食べてしまいたい。この唇に触れ、口にすることのできる柔らかなあなたの全てを。



end

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