| 花 |
| 鮮やかに、またひとつ鮮やかに ひとつ、ふたつ、みっつ・・・ 誰のためにか、咲き続ける。 ガサリ 足を踏み込むたびに派手な音を立てて枯葉が砕ける。 砕いても、砕いても、止むことを知らず降り落ちる葉は、春を待てずに、その乾いた姿のままで舞おうというのか。 今はただ、ごつごつとした地肌ばかりが目立つこの枝も、季節が巡れば、盛りを向かえ大きな花を咲かせてゆく。 その優しい色を持つ花を、どこに隠しているのだろう。 その震えるほどの美しさを、どこに隠しているのだろうか。 花は真白く美しかった。 そして美しくて怖かった。 頼久は今は枯葉を降らせる樹の枝が白い花を満開にして、饗宴を繰り広げる季節を思い出していた。 空恐ろしいほどの満開。 咲く花、散る花・・・ 指で簡単に裂いてしまえるほど薄く儚い花びらに、そんな儚き花に、埋め尽くされてしまいそうで、前を行く幼き主を見失ってしまいそうで。 ・・・神子殿っ 呼び止めずにはいられなかった。 けれど、喉にびっしりと花びらが詰まっているようで、喘げども声にはならず、そして声にする前に、舞い振る花びらの中から駆け寄ってくる姿に見蕩れた。 ゆっくりとそれでも確実に自分へと落ちてきた柔らかな唇に、息を止めた。 どうして、神子殿・・・。 どうして・・・・。 どこに隠していたのか。この幼き主はこんなにも美しい花をどこに。 鮮やかな、鮮やかな花が、目を閉じた頼久の脳裏に浮かんでは散る。心はとうの昔に花びらに埋め尽くされていた。 背けようとした顔は動かせなくて 肩に触れた手を離せなくて 抱きしめた、この確かなぬくもりを、貴女の体を腕の中から逃したくなかった。 その想いに応えるように、あかねの腕が頼久の背中に回った。 ひとつ、ふたつと、自分に舞い落ちる枯葉を指で摘む。 鼻先に垂れる枝を握り締めると、一筋の赤が小指の根元から流れ出した。 自分から離れてゆく人はみな、残酷だと頼久は思う。 決して嫌わせてくれず、憎ませてくれず、美しい思い出だけを残して。 そして、神子殿 あなたはここにいない。 鮮やかに、またひとつ鮮やかに ひとつ、ふたつ、みっつ・・・ 誰のためにか、咲き続ける。 今は何処で咲き続けるのか。 ガサリ 頼久に踏まれた枯葉が、泣くような音をあげては、冬を、知らせた。 |
――終 |