| あなたに夢中 |
| 「神子殿、ただいま帰りました」 頼久がドアを開けて声をかける。 いつもならば、あかねが飛び出してきて頼久に抱きつくはずだが、今日は何やら様子がおかしい。 リヴィングの電気もついてるし、人の気配もする……いないはずはないのだが。 頼久は訝しげな顔をしながらあかねの姿を探した。 「神子殿……」 リヴィングのドアを開けると、確かにあかねはそこにいて、二人で選んだソファーに座っていたのだが、いくら声をかけても頼久の方を振り向きもしないで何かに夢中になっていた。 よくよく見ればあかねはテレビに夢中で、一瞬でさえも目を離そうとはしない。 「そんなに面白い番組でも?」 現代にきてテレビの面白さを知った頼久も、あかねのその姿に興味をひかれ、目はテレビの画面に吸い込まれていった。 だが、そこに映っていたのは人間ではなく、動物でもなく、アニメと呼ばれているものにもよく似ていたが、声はまったく出ておらず……初めて目にする、それに頼久は戸惑いを隠せない。 テレビ画面とあかねとを交互に見つめながら、どうしたものかと考える頼久の耳に突然、「お嬢ちゃん」という男の声が飛び込んできた。 え? 今のは何だ? そう思ったのもつかの間、次の瞬間には 「ああ〜ん、オスカー様、チョーかっこいい。激かっこいいよぉー」 あかねの甘い声が部屋に響いた。 ……オスカーとは、一体誰なんだ…… 「み……神子殿……?」 頼久が思わずあかねの肩をつかんで振り向かせた。 あかねは「ああ」と言うと、頼久の存在に初めて気づいた様子で、「お帰りィ〜頼久さん」と一言だけ言うと、またすぐにテレビに視線を戻す。 それでも頼久は我慢強く話しかけようとする。 「それは……何をしてらっしゃるのですか?」 頼久はこの後、「オスカーとは一体誰なのですか」と続けたかったのだが、あかねの「ああ、ゲーム、ゲーム」というそっけない返事にそこまで聞くことができない。 あっけにとられた頼久が再び「神子殿」と声をかけるが、あかねはその声が聞こえないのか、ゲームに夢中で…… 「オスカー様!!もうめちゃ好み……ああ何でこんなにカッコいいわけ〜?」 しまいには「私・・・オスカー様だったら……」とまで言い出す始末だった。 ゲームのキャラクターだと知ってもなお、あかねにそんなことを言わせる、オスカーとかいう男が頼久は憎らしくてしかたがない。 だが自分が何を言ってもあかねは自分を見ようともしない。 頼久はおもむろにテレビのリモコンを掴むと、スイッチを切り 「あっ・・・・オスカー様が・・・・」 次にゲームのコントローラーを放心状態のあかねの手から取り上げた。 「ちょっと、何するのよ、頼久さんっ、返しなさいよっ」 頼久はそれを持った手を自分の頭上に高く持ち上げる。 あかねが取り返そうとバタバタ騒いだが、所詮届くはずはなく、仕方なくあきらめると頬を膨らました。 「もう、何なの?今、オスカー様といいところだったのにィ」 あかねの口から「オスカー」という言葉が出るたびに頼久の眉間にしわがよっていく。 「神子殿っ」 頼久がじっとあかねを見つめる。 ……なんか頼久さん怖いんですけど。私何かした?? 「よ・・・頼久さんどうしたの??」 頼久は無言であかねの身体をきつく抱きしめた。 「神子殿、あなたが悪いんですよ」 「えっ?」 頼久は、あかねを抱き上げるとベットルームへと歩き出した。 「ねえ、待ってよ。どうしたの??頼久さんってば」 「私以外の……」 「何?聞こえないよ」 「私以外の男にあなたを渡すわけにはいきません」 頼久は吐き捨てるように言うと、あかねをベッドの上に押し付け、激しいキスを何度も何度も繰り返した。 「ねえ、ねえってば……お願いちょっと待って……」 急に甘い声に変わったあかねに頼久はその手をとめてあかねを見つめた。だがその甘い声はまたすぐに変化を遂げた。 「はーい。頼久さん、しつも〜ん。質問がありまーす」 「はっ、何でしょうか」 こんな状況でさえ、あかねを目の前にすると律儀に答えてしまう頼久だった。 「頼久さ〜ん……もしかして、嫉妬??」 あかねがイタズラな視線を頼久に向けると、頼久の顔が真っ赤に染まり、コクリとうなずいた。 「はははっ。やだゲームのキャラに嫉妬したのぉ?」 「……ハイ」 あかねは自分の言葉に照れているにもかかわらず、「本当に可愛いなぁ」と思いながら頼久を見つめた。 「質問その2〜」 頼久の身体がビクっと震えた。 ……これ以上何を聞かれるのだろうか…… 「頼久さんは、なんで今でも神子殿って呼ぶんですかぁ〜?」 その場に固まる頼久とは対照的に、あかねは明らかにおもしろがっている。 「ねえ、ねえ、どうしてあかねって呼んでくれないの??」 頼久があかねを名前で呼ばない理由……それこそ嫉妬以外の何物でもなかった。 頼久とて、愛しい恋人を名前で呼びたかった。だが、あかねは誰からも、そう天真や、詩紋だけでなく、他の男からも「あかね」と呼ばれている。 そこには恋愛感情はなく、みな友人としての親しみを込めて呼んでいるのに違いはないのだが、頼久は、その皆と同じというのが嫌だった。 自分だけに許された呼び方 ……そう「神子殿」と呼ぶことであかねにとって自分が特別な存在だと感じたかった。 だが、おもしろそうに自分を覗き込むあかねに今そんなことを言ったら、それこそ「馬鹿みたい」と笑われるだろう。 言えない……絶対に。これだけは白状するわけにはいかない…… 頼久は言葉に詰まりながら「そ、それは恥ずかしいからです」と答えたが、あかねは「ふう〜ん」となにやら疑っているような眼差しを頼久に向けた。 頼久は何だかあかねにからかわれているような気がして、ベッドの上で姿勢を正すと、ひとつ大きな咳払いをして切り出した。 「神子殿、あなたは私に嫉妬することはないのですか?」 そう言いながらも、心の中では違うことを考えていた。 ……自分のような男に嫉妬することなど無いのだろう。もし、万が一したとしても意地っ張りなあかねが言うはずもないか…… だが、あかねはただ一言「するよ」と答えた。 「えっ」頼久が思わず後ずさりをする。 「しないとでも思った?」 頼久がうなずくのを見て、あかねは微笑むと 「するよ。つーかしてる。私は頼久さんの過去にも前世にだって嫉妬するよ……それと」 あかねが頼久の肩を掴んで、その身体を押し倒してゆく。 「なっ、何ですか神子殿っ」 先ほどとは一転して、迫られる体勢になった頼久の声がうわずる。 「この前……プレゼント貰ってたよねぇ、あれ誰から??」 あかねはニッコリ笑いながら、頼久のネクタイをほどき、首にそっと唇をよせた。 「くっ……」 頼久の喉の奥から声が漏れる。 「頼久さん・・・ここ弱いんだよね・・・・」 あかねはもう一度口づけると、すっとその唇を離した。 「っ…み、神子殿……」 「早く答えてよ。答えてくれなかったら続きはしてあげないんだから」 あかねのその言葉に、即座に頼久が口を割ったのは言うまでもない。 かなり恥ずかしかったが、あかねが自分に嫉妬していることを知って頼久は嬉しかった。そしてあかねから求められる喜びを全身で感じて その思いをあかねに伝えるべく、あかねに甘い声を何度もあげさせ、夜が明ける頃、頼久は「オスカー」のことなどすっかり忘れて愛しいあかねを抱きしめながらようやく眠りについた。 そして、もちろんあかねがその腕の中で…… 「頼久さんが会社に行ったら、続きやるんだっ」などと思っていたことは、知るわけもなかった。 |
| ―― おわり |