蜜柑


 まだ少し青みの残る、それでも瑞々しい橙色の皮を、休むことなく指が裂いてゆき、白い繊維を覗かせる。
 一房つまんでは、それは唇へと運ばれてゆき、その動作はまるで機械のように正確で……。

 それを見つめる友雅の顔には先ほどから憮然とした表情が浮かんでいた。
 けれど……
 目の前のジグソーパズルに夢中なあかねは友雅の顔を見ようともしない。

「……ねえ……」
「ん……何……」

 友雅の呼びかけに、あかねはパズルを見つめたまま振り向きもせずに答える。

「そのパズル……おもしろいかい?」
「…………ん」

 ――ふうん。

「……ねえ…………」

 もう一度呼んでみる。

「ん……どうしたの……」

 ――少しはこちらを見てもいいと思うんだけど、これは我侭かい?

「あかね、その蜜柑甘い?」
「え?あ、うん。友雅さんも蜜柑食べる?」

 そう言って、無造作に蜜柑を一つ掴んだあかねは、まだ友雅を見ない。

「いや……」
「食べないの?美味しいよぉ」
「別に沢山欲しいわけじゃないからね、じゃあ、一房だけ貰おうかな」

 蜜柑を一房つまんで、友雅の方へと手を伸ばしてゆくあかね。
 友雅は口元まで届いたそれを、あかねの指ごと口に含んだ。

 ――甘い……

 手を引こうとするあかねの手首を素早く捕まえて、蜜柑を口の中に落として奥歯で噛んだ。甘みを楽しみながら、友雅はその細い指へと舌を這わす。不意に顔を上げれば、その視線の先にはあかねがいた……とてもじゃないけど目を反らせないといった顔のあかねが。

 ――やっと、こちらを見たね……それでいいんだよ……

「…………ねえ」

 三度目の『ねえ』はあかねから。

 あかねは友雅の耳元へ唇を寄せて囁く……

「…………しよ」

 まったく。
 断れないと知っていてこんなセリフを言うのかい?
 なんて憎たらしくて……そして可愛い人……

 潤んだ瞳に吸い寄せられるように、甘酸っぱい口づけを落とす。


 そしてテーブルの上には蜜柑が一房……



[おわり]