Yes - あなたに罪を - [3]





 「よくできました」

 ロキは優しく微笑むと、自分の胸に飛び込んできたヘルの身体を、ぎゅっと抱きしめた。

 「ちゃんと約束守れたね。たくさん愛してあげるよ、ヘル」

 ヘルの額に、睫毛に、頬に、そして唇に、慈しむようなキスを落とす。うっとりとした表情のヘルの目蓋が下がった。

 未だ、ガクガクして膝に力の入らないヘルの身体を柔らかい草の上に、ゆっくりと横たえる。それからまだ身に着けたままだった上着にそっと手をかけた。ネクタイをほどき、ブラウスのボタンをひとつずつはずしてゆく。
 不意に視線が合うと、ロキはヘルを落ち着かせるように、にっこりと笑った。
 長い前髪を指で左右に撫で分け、最後に眼鏡をはずすと、ヘルが急に恥ずかしがった。

「か、返して、お父様っ」
「大丈夫。ヘル、君は美しいんだから」

 緑濃い草の上に寝そべるヘルの真白な裸体は、本当に美しかった。

「それに…もう、ロキ、でいいよ」

 ヘルの鼻先をちょんと指でつつく。

「ロキ…、ロキ様…」
「そう、それでいい」

 ロキは指を頬に這わせ、首筋をなぞり、豊かな乳房の頂点を掠らせた。

「んんっ」

 ヘルの身体の曲線にそって、そうっと、羽でくすぐるようにウエストまで動かした。
指で触れた箇所から肌が紅く染まり、びくびくと身体を捻ると同時にヘルの口元から、甘ったるい吐息が漏れ出す。その反応を楽しむようにロキは指を何度も往復させた。

「ロキ様…、私っ、もうっ」
「ああ、今あげるからね…身体の力、抜いてごらん」

 ロキは、ヘルの身体を開くと、既に膨張した自身をゆっくりと挿し入れた。

「んっ・…あっ、ああっ、ロキ、ロキ様っ、ロキ様っ」
「っ、ヘル、声、我慢しなくていいよ。好きなだけ泣いていいんだ」


 ヘル、君の悲しい声も、苦しい声も、全部、全部、僕は聞くから。
 そして、僕の全てを君にあげるよ。君が求めるなら、何もかも、だ。


「ああっ、ロキ、ロキ様っ、駄目っ、だめですっ、お父様っ、いくぅっ」


 …言いたい言葉は、今日も口にはできなかった。


 ロキはヘルが達するまで、そして達してからも、ずっとずっとその身体を離さずに抱きしめ、ヘルの息が整うまで髪を撫で続けた。


 …いつだって、こうしてあげたいんだよ、ヘル。本当はいつだって。







 ロキはヘルを初めて抱いた時、口では「嬉しい」と言う彼女が、まるで触れれば弾け飛んでしまいそうに、脆く、悲しく見えた。


 傷付けないように抱いたつもりだった。
 誤解とは言え、自分は愛されていないと思い込んでしまった彼女にできる限り優しくしてやりたかった。包み込んでやりたかった。愛していると教えたかった。そうしたつもりだった。
 けれど、いくら優しくしても彼女は満足できない…いや、心の底から安心しない。
 ロキがどんなに優しく抱いても、どんなに愛していると言葉で伝えても、ヘルは満たされずいつも不安だった。

 それは、多分…

 幼い頃から、素直な良い子だったヘルを、ロキもヘルの兄たちも、誰も見向きもしなかった。嫌ったわけではないが、だからと言って他の感情を持つわけでもなかった。

 ヘルは彼等にとって、特別な子ではなかった。

 そしてやがて、彼女はロキたちを憎んだ。
 兄弟を憎み、父親を憎み…それは自然な流れだったのかもしれない。
 
 最後にはロキの大切な人たち全てを憎み、ロキから奪おうとした。
 

 …皮肉なもんだ、僕への復習として、生まれて初めて悪い子になったヘルに、僕は初めて言ったんだ、愛している、と。


 そして、ヘルは錯覚した。
 愛されたことのないヘルは、悪いことをして、罰せられることこそ、愛されていることだと。
 悪い子になる。
 そうしなければ、見つけてさえもらえない、と、悲しい錯覚をした。

 ヘルとの行為に、それは顕著に現れ、ロキもまた、すぐそれを見抜いた。

 ヘルとの行為の時、恥ずかしい言葉や、意地悪な言葉を与えるだけで、ヘルの敏感な身体はより一層、熱を持つ。
自らが悪い子であり、それを罰せられる時こそ、ヘルの愛されていると実感できる唯一の時だ。

 そして、ヘルも本能で感知する。

 ロキに恥ずかしい言葉で責められ、それを強要され、それを拒むことで、言いつけを守れない悪い子になれる口実になることを。
 だからヘルは、いつもいつもロキの言葉を嫌がるそぶりを執拗に続けた。その身体は自分でコントロールできないほどに感じていても。

 罪なんて言っても、それは簡単なことでいい。

 服を脱ぐとか脱がないとか、ヘルに自分を欲しいと言わせるとか。きっと何を言ってもヘルはそれを拒むだろうから。

 例え、小さな罪でも、ヘルにとっては心の底から渇望する罰を貰える口実なのだから…愛されていることを知るための、罰、なのだから。


 ロキは、ヘルが求めるならば、彼女に罪を与え続けることを誓った。
 その罪は自分が、自分だけが罰してやれるのだ。
 そして、罰し、叱った後には、ずっと抱きしめてあげよう。彼女のためだけの愛情を惜しみなく、全て与えよう。

 
 

「お父様…」

 ロキに抱かれながら眠ってしまったヘルが、まだ半分うとうとしながら手探りでロキの肌に触れる。

「起きたの?」
「ん、もうちょっと眠ってもいい?」
「ああ、ゆっくりおやすみ。ずっと抱いていてあげるよ」
 

 ロキは腕の中のヘルをじっと見つめた。
 可愛いヘル。
 子供のようなヘル。
 ふっと、息を吹きかけるとピクピクと震える睫毛が愛しかった。


 ねえ、ヘル…
 君は旅をすると言ったよね。
 僕はその旅がどこへ向かおうとも、どこまでも共に行くと決めたんだよ。
 君を、守ると誓ったんだよ。
 だから、ヘル。
 この旅が続くかぎり、ヘル、僕は君に罪を与え続けるよ。
 それは…
 もしかしたら、この先、エスカレートしてゆくものかもしれない。
 けど、君は何も心配しなくていい。
 何も訊かなくていいんだ。
 だって僕は君をすべからく肯定するに決まっているのだから。
 ヘル……
 すべてもういいんだよ。
 君への答えは、もう、いつだって、Yesだけしかないのだから。
 



 「ヘル?ねえ、もう眠ってしまったかい?」


 ヘルの返事はなかった。
 代わりにロキの腕に乗ったヘルの頭の重みがぐっと増した。


 愛しているよ。
 愛していたよ、ずっとね。

 さあ、僕らの罪を始めよう、ヘル。





END



Yes あなたに罪を