プライベートレッスン-first
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向かいあった里緒の目の前に、涼は人差し指を差し出した。
不思議そうな顔をする里緒に、クスっと笑うと、涼はその指を里緒の唇にそっと宛がった。


「口の中に入れてごらん・・・そう、ゆっくりでいいから・・・」


里緒は、戸惑いながら、遠慮がちに涼の指先を口に含み、何も言わずに自分を見つめる涼を見上げた。


「っん・・・・りょおにぃ・・・?」


涼が黙ったまま頷き、少しずつ指を口内へと進める。里緒はされるがままに涼の指を導き入れながら、鼻先から小さな息を漏らした。


指が口の中で動く感触に里緒は驚き思わずその指を噛んでしまう。
だが涼は、その痛みにすら笑みを浮かべ、かまわず指を里緒の舌に絡めてゆく。
里緒の舌を柔らかくするように何度も、ゆっくりと、優しく絡めては里緒の反応を見た。


「ねえ、里緒?・・・・今、息できてるよ」


涼の指に塞がれているので、里緒は返事ができない。その代わりにこくこくと頷くことで涼に応えた。
息をしている。口を塞がれながら鼻でちゃんと息ができている。
里緒は練習を終えた気分でいた。今にも指が抜かれると思っていた。
だが、涼の指は里緒の舌を滑り、歯を、歯茎をなぞり、頬の内側を這い、舌裏の筋までも軽くくすぐり、口内のあらゆる粘膜に指を遊ばせた。
涼の行為に驚いているのに、思いもしなかったことなのに、里緒はただ鼻から甘い息を漏らすことしかできなかった。しかも自分の意思に反して閉ざしていたはずの唇が徐々に開いてさえゆく。


「里緒・・・目、閉じてて」


涼は里緒の唇に、もう一本指を宛がう。口端から垂れる唾液をその指に絡め、くるくると唇のふくらみを何度も往復させ、それからゆっくりと、やはり口の中へと挿し入れていった。
二本の指で舌を挟むようにすると、里緒の舌がそれに反応して蠢き、涼の指が小さな口から押し出され、そしてまた引き込まれた。
自分の指を、それも二本も入れられてもなお、ちゃんと呼吸できるようになった里緒、しかも指の感触を心地好く感じているかのような、うっとりとした表情を浮かべる里緒。

---教えがいのある生徒ってやつなのかな、これは・・・


「里緒、気持ちいい?」


返事は無かったが、自然体のまま呼吸をし、体を自分に預ける里緒に涼はその答えをYESだと確信し、指を一本だけ静かに抜いた。
抜いた指の代わりに、そっと自分の唇を重ねる、そして開かれた唇を塞ぐようにしながら、もう一本の指も抜くと、そこへ自分の舌を挿し入れた。
はじめは、ゆっくり・・・・指と同じように。それから、指よりももっともっと熱を持った舌先同士が絡み合ってゆく。何度も角度を変えては舌を絡め合う。
ぴちゃぴちゃという音の合間に、里緒の鼻先から漏れる息が甘い音を立てていた。


こんなキスは初めてだった。
こんなに、熱く、そして甘く、気持ちのいいキスは初めてで・・・
いつもは戸惑う自分が、今は、うっとりととろけるほどの気持ちで涼を受け入れていることに里緒は驚きながらも、自分の奥から湧き上がる、もっともっとという感情を抑えようとはしなかった。できなかった。

もっと涼と繋がっていたい。
その思いが、遠慮がちに絡めていた自分の舌を、全て涼にささげさせた。
ほんの少し目を開け、涼の微笑み感じると、里緒はまた目を閉じて、涼に腕を絡めていった。
涼と、繋がっていった。


少しずつ、里緒は涼へと体を預けてゆく。目を閉じていても、自分の体の角度が、涼の角度が下がってゆくことが感じられた。涼の指が髪を掬い上げ、涼の背中に回した自分の手の甲にシーツが擦れた、その時、ベッドの脇に置いてあった目覚まし時計が、ガツっと鈍い音を上げて床に転げ落ちた。


「あ・・・・・」


互いに声をあげ、どちらともなく唇を離してゆく。唇が離れた瞬間、たまらない切なさを感じたが、ばっちりと目が合ってしまっては、里緒はその感情さえも恥ずかしくて仕方ない。
再びうつむいてしまった里緒の赤く染まった頬に、涼は軽く口付けると、そのまま耳元に唇を寄せる。


「どうだった?俺との練習・・・」


そう言って、耳朶を甘噛みすると、里緒の体がビクと震える。


「ど、どうって・・・」

「俺は、もっと練習したいけど」

「・・・・・・」

黙ってうつむくばかりの里緒の両頬を、涼はしっかりと手のひらで包み、自分のほうへと視線を引き上げる。
それから、里緒の顔を覗き込むように、ニッコリと微笑みながら


「それとも・・・里緒は嫌だった?もう、俺としたくない?」


こんな顔で、こんな声で、こんなに見つめられて・・・・断れるわけなんてない。
嫌だなんて言えるわけない・・・・それに・・・嫌なんかじゃなかった。


「涼兄っ」

「おっと」


わざと体制を崩して大袈裟に驚いてみせながらも、涼は自分へと体を投げ出してきた里緒をしっかりと受け止めて、しっかりと抱きしめた。


「じゃあ、練習始めようか。今度はちょっと手厳しいかもしれないよ・・・それでもいい?里緒?」


いつもとは少し違う涼の声に、思わず里緒はその顔を見つめてしまう。
けれど、すでに心は絡まっている。さっきから繋がったままだった。

里緒はまるで甘い囁きを聴いているような表情を浮かべながら、一回だけ強く頷き、再びうっとりと目を閉じていった。



ただの瞬きが、ただの呼吸が、全て愛しさにかわる。
涼は里緒に、里緒は涼に包まれて、そして二人は柔らかなシーツに包まれていた。





おわり