call again






10月にしては暖かい日曜の午後、森林公園の芝生は少し色が褪せたとはいえ、
昼寝をするのにはもってこいの場所に変わりなかった。

ピクニック気取りで広げたバスケットの中身をあらかた片付けた後、いつものように俺は、芝生に寝そべって、
ただぼんやりと空を眺めては、ゆっくりと形を変えてゆく雲の行方を追いかけていた。

隣にはあいつがいて、その安心感からか、俺はいつしか目を閉じた。

別に緊張していたわけでもないのに、体の力が抜けていくような感じが心地よく、
眠るつもりなんてなかったけど、どうやらウトウトしていたらしい。

風の音に混ざって、のため息にも似た声が耳に届いて、そして初めて自分が眠っていたことに気がついた。

うっすらと目を開けると、何か考え込んでるようながいて、そんな見たこともないような、あいつの顔に、ちょっと驚いて・・・・それから・・・・あいつにそんな顔をさせてる何かに、俺はきっと嫉妬してた。
だから・・・の腕を掴んだ・・・・・きっとそれは・・・自分を見て欲しくて・・・・・


「・・っ!何?どうしたの葉月くん!」


俺に腕を掴まれて、倒れこむ形になったは、何が起きたのか理解してないようで、
それはあたりまえなんだけど、真っ赤な顔をしたあいつは、俺の知ってるいつものあいつで・・・
・・・俺はそれで満足したはずなのに・・・・手を離さなかった。


「ねえ、本当に・・・どうしたの・・・葉月くん・・・」
「・・・別に・・・・」


・・・答えになってないな・・・・・・


「あの・・・・とりあえず、離してくれないかな?」
「・・・やだ・・・」
「えっっ!やだって・・・だって、このままじゃ・・・葉月くんだって重いでしょ?」


俺は返事をするかわりに、掴んだままのの腕を自分に引き寄せた。
胸の上にある存在を確かめるように、背中に手を回す。


「わっ、ちょっ、ちょっと」
「・・・・なあ・・・俺とこうしてるの・・・・嫌か?」


わざと、悲しそうな顔をしてみた。


「そんなことないっ、そんなことないけど、でもっ」


慌てて首を横に振る、が可笑しくて、そして・・・・なんだか愛しかった。
だからもっと・・・もっと・・・からかいたくなる。


「そうか・・・『でも』・・・・が付くのか・・・・」


こんなこと言ったら、あいつが困るってわかってるのに・・・・
すごい意地悪だ、今の俺。
でも、あともう少しだけ・・・・そう思って耳元に口を寄せると、の体が一瞬ビクっと反応した。


そっと耳元で囁く・・・・


・・・・俺、したい・・・・・」


ギュっと目をつぶるの体を支えて起き上がった。

「は、葉月くんっ」
「クスッ・・・・ごめん、冗談」
「え、冗談って・・・なによそれ〜!信じられないっ」

……信じらんない、か。

「ごめん」と一言だけ言うと、怒ったままのを横目に俺はまた芝生に寝っころがった。
---冗談・・・なんかじゃなかった、無理やり冗談にしただけだ。
本当は今だって、その髪に、その唇に触れたくてしかたない。


「なあ、
「ん?なあに?」

さっきまであれだけ怒ってたくせに、の声は、もう、笑ってた。


「なあ、お前・・・何考えてるんだ?」
「何って・・・・あ、葉月くんのこと怒ってるに決まってるでしょ!」


・・・そんな顔で言っても説得力ないって気づいてないんだろうな・・・・


「そうじゃなくて、さっき・・・お前、何か考え込んでただろ?」
「あ、・・・」


こいつ・・・・忘れてたのか?・・・・


「お前、何か悩んでたんじゃ・・・・ないのか?」
「あ!そうだ!うん、そうなんだよ、実はね、葉月くんにお願いがあるの」
「お願い・・・?・・・何だ?」
「あのね、葉月くんに私のあだ名を考えて欲しいんだけど・・・・・」
「・・・・・・・あだ名?」
「うん、だってね、私ってあだ名が無いでしょう?なんかちょっと寂しいなーっていつも思ってたんだよ」


あだ名・・・・なんだ、そんなことだったのか・・・・


「葉月くん・・・」
「何だ?」
「今・・・『そんなこと』って思ったでしょう?」


・・・・うっ・・・いつも鈍いくせに、どうしてこんな時だけ勘が働くんだこいつは・・・・・・


「べ、別に・・・・」
「嘘っ!」
「い、いや悪気はない・・・・・・・・」
「あぁー!!やっぱ、そんなこと、って思ったんだ!ま、いいや」
「悪い。でもあだ名なんて欲しいもんか?そのまんまでいいだろ?」
「んー別にいいんだけどさー。でもさ、あだ名があるってちょっといいじゃない?」




----・・・・・

胸の奥にずっとしまっておいた名前・・・・・・
ずっと昔に、毎日呼んだ名前・・・・・
・・・・小さな女の子のあだ名・・・・俺の大切な・・・・・
だけど、他の奴に呼ばせるくらいなら・・・・


「あだ名なんてなくっていい!」
「え・・・葉月くん、何か怒ってる?」
「怒ってたのは、お前だろ?」
がキョトンとした顔で俺を見つめる。



・・・
この大切な言葉を他の誰かの口から聴きたくない。
そう、って呼ぶのは俺だけ。俺だけが、そう、呼ぶ。




・・・・、・・・・、
ねえ、、今日は何して遊ぶ?明日も遊べる?
じゃあ、この教会でねっ!また明日ね。



何度も何度も、数え切れないくらい呼んだ名前
今も呼びたくて仕方ない名前・・・


「ねえ、葉月くん、それってどういう意味?怒ってたっけ?」
「まあな」
いつもの調子に戻ったの声を聞きながら、俺はまた目を閉じた。


・・・・・・いつかまたそう呼べる日まで・・・今はせめて、夢の中だけでも。







おわり





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