50 TITLES(21〜30)



21 逃げろ!

「頼久さん」
「……」
「ねえ、頼久さん?」
「…はい」
「頼久さんってさ、ほんっとにハイしか言わないね」
「…ご、御前失礼」
「あ」


逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げなければ。
これは私ではない。
自分の持つべき感情では、決して。
だから、逃げ出さなければ、ここから、
こんな自分から…、神子殿…貴方から。


けれど、どれだけ貴方を遠ざけても
神子殿、
目を閉じても姿は残り、声が響く。



22 スーツ

スーツだ!と言ったら、少し驚いて私を見た。

「おかしいでしょうか?」

おかしくなんかない。社会人の大半はスーツを着てるものだし。

それに、似合ってたりもする。

「か、会社ではこのような服装がふさわしいと聞きました・・・その、み、神子殿の制服と同じようなものです」

照れているわりには、何故か嬉しそうだった。



23 革靴

あの人は、この靴を知らない。
あの人の前では、革靴なんて履いたことなかった。

あの人と約束をした。時間も運命も人生も家族も、全てを裏切るほどの約束を。

かかとの高い靴を履く年になった。
でも、この靴はあの人のところには連れては行ってくれない。


約束を守ればよかった。私もまた。


(頼久は約束を守り続けていると思う)



24 密室

どんなに長い時間を、過ごしても、
どんなに愛してしまっても、
きみを恋人と、呼んではならない。

(気持ち的には、天レクのオスコレ)



25 どうしてくれるんだ
あなたの微笑みを、あなたの声を、
それを、思い出と呼べばいいのだろうか。

思い出などが欲しくて、顔をそむけたわけではないのに。

もう、あれ以上の苦しい思いをしなくてすむはずだったのに。



26 いっせーのーで!
交わることのない視線。
返されることのない笑み。
繋がることのない手のひら。
触れることのない唇。

覆されることのない主従関係。

その全てを、いっせーのーで!……お願い、私を、嫌いにならないで。



27 雑巾
まず古くなった布を用意しましょう。よく馴染んだタオルなどがよろしいでしょう。さあ、針に糸を通します。おしりをきちんと結びましょう。布の端に針を刺し、まずはまっすぐ、ここで右に曲がりましょう。斜めに進んでもいいでしょう。


「神子殿!」
「あ、頼久さん!」
「やはりこちらにいらしたんですね。皆、神子殿がいらっしゃらないので慌てておりますよ」
「ごめん。迷っちゃって・・・」
「それにしても、今までどちらに?」
「よくわからないんです。知らない道も通ったし。地名もわからないから人にも聞けなくて」
「それにしても、よくここにいらしてくださいました」
「遠くからこの桜が見えて!私、この場所が大好きなんです!それに、ここに来れば頼久さんに会えると思ったんです。あれ?でも頼久さんこそなんで?」
「私も大好き・・・あ、いえ、その、以前神子殿が、この桜の木をとても熱心に眺めてらしたことがございましたので」
「あ、頼久さんが初めてここに私を連れてきてくれた時ですね!あの時って確か・・・」
「神子殿!と、とにかく、ご無事でなによりです。さあ、まいりましょうか?」
「はい!!」


何度も往復させながら、しっかりと縫ってゆきます。じぐざぐと、糸が交差するように縫い合わせると強度が増します。細かく縫いながら一周し、縫い始めの場所に戻りましょう。

はじまりで、おわりの場所に、しっかり玉結びを。どうぞお忘れのないように。



28 穴 (遙か3で、白龍と神子)


「ねー、どうかしたの?ねえってば」

最近、白龍が私を避けているような気がする。
今日だって、私が話しかけようとすると、さっと横を向いて
読めないくせに新聞なんて広げちゃって。
だいたい夜は、私の世界のことを勉強する時間じゃなかったの?

「今日は何から教えようか?あ、ちょうどいいから、その新聞のこととかニュースにする?」
「・・・私は、今日は少し、用事があるみたい」

・・・会話すら成立しない。
だいたい「あるみたい」って誰の用事なんだか。
仕方なく部屋から出ようとすると、途端に感じる視線。あれ?
振り向けば、白龍の髪が揺れている・・・こっち見てた?
わざとらしく知らんぷりしてみて・・・今度は不意に振り返ってみた。

「白龍!」
「わ!」

そんなあからさまにそっぽ向かなくたっていいのに。

「み、神子?」

私の顔なんて見たくないんでしょう?白龍の方なんて向いてあげない。

「なあに」
「神子・・・怒っている?」
「別に、そういうわけじゃないけど」
「ごめんなさい」

それでも白龍は、頑なに私を見ようとしない。
だったらどうしてあやまるの?

「神子、神子、ごめんなさい。あやまるから、もう見ないから、怒らないで」
「なっ、なんで!よくわかんないよ、白龍」
「だって、私は神子が好きだから・・・神子を見ていたいから・・・だけど、神子のお母さんが神子に穴があくって・・・ごめんなさい」
「はあ?なにそれー?私がいない時二人で何話してるんだか」
「だから、私は神子ばかり見ているんだって、穴があいてしまうんだって・・・私、神子に穴が開くなんて嫌だよ」

・・・私だって嫌だよ。


穴があくほど見つめるの意味・・・早目に教えてあげないといけない。
今夜の勉強の予定は変更。私のためにも、彼のためにも。



29 虫籠と鳥籠 (遙か3で、ヒノエと神子) new
 世の中には足が速い生き物がいる。もちろん人間にも。
 生まれつきなのか遺伝なのかわからないが、その元をたどってゆくと理由は二つ。獲物を捕らえるため、と、敵から逃れるため。
 生物はこの単純な二つの理由のためにスピードとパワーを増してきた。

 「ヒノエくんて足が速いよね」

 いきなりそう言った私に、ヒノエくんはなんのことだい?と笑う。

 「だって、今日みんなを案内してくれた時、歩くの早いなーって思って」
 「そう思うかい、望美は」

 ヒノエくんの場合は後者だよね、きっと。
 こっちへおいでと手招きをしながら、ひらりと身を翻す。相手が追いついたと思った時には、もう次の場所で笑ってるんだ。あと5つであがれるスゴロクで、毎回6の目を出してはひとつ戻る。追いつけそうで追いつけない・・・そんな感じ。
 敵から逃げるっていうのとは、ぜんぜん違うけど、それでも絶対に捕まったりしない人なんだヒノエくんは。

 そんなたどたどしい説明をして、ふと見上げた顔は笑っていなかった。

 「かまわないよ」

 どこか怒りを含んだような声に背筋がゾクリとした。密着してくる影に身を預ける。

 「望美になら捕まってもかまわないってことさ。なあ、オレを飼ってみなよ」

 ・・・それなのにつれないね、いつになったら追いかけてきてくれるんだい?
 耳元で囁かれ、胸の奥がうずく。熱くなった肌を、いつもヒノエくんを飾る羽がくすぐった。
 
 無理だよ。ヒノエくんを捕まえることなんてできっこない。捕まえて籠に入れて鍵をかけて・・・そんなことできない。

 「好きだよ、望美」

 その瞬間、ガチャリと鍵がかかった音が耳の奥に聞こえた。
 
 「もしオレが追いかけたら、姫君は捕まるかな」

 一瞬身を引いた私に「可愛いね望美は」と、長く伸ばした髪を指に絡め取る。その器用そうな指先に、髪が巻きつくごとに、どこにも行くな、そばにいろと縛り上げられてゆくようだ。
 私は、もしかすると勘違いをしていたのかもしれない。私を見るヒノエくんの瞳は、熱いのにどこか冷たい。私が今何を考えていたかなんて全て見透かされてそうな、まるで籠の中の私を眺めるような、そんな眼差しだった。



29 泣いても良いよ (遙か3で、小さな白龍と神子)new
「私の神子・・・」
「どうしたの白龍?もう夜中だよ」
「神子・・・遊んで」
「眠れないの?」
「遊んでくれないの?」
「うーん。もう遅いし、今日はちょっと疲れちゃって・・・」
「神子・・・」
「あ、あ、あ、じゃあ白龍が眠れるまで御伽噺してあげる。それでいいでしょ?」
「御伽噺って何?鬼ごっこしよ」
「・・・・・・」


・・・・・・泣いても良いですか?