エンゲージ











「ばっかじゃないの!」

私はアリオスに向かって怒鳴りつけると、ズンズンと歩き出した。
雨が降ってようと、そんなこと関係ないんだから。

「おい、待てよアンジェ。」

ふんっ。待たないわよ。

「何怒ってんだよ、ったく」

何を怒ってるですって!?そんなこともわからないわけ?

しかも今「ったく」って言った?
舌打ちした?

それはこっちのセリフだって言うのよ。
アリオスが女の子にモテるってことくらいわかってる。
そんなこととっくにわかってる。

そりゃあ、私のことを「お嬢ちゃん」って恥ずかしげもなく呼ぶ、あの、ちょっとキザな(でも好きだけど)モテモテな守護聖様とはタイプが違うけど・・・一見怖そうだし、ぜんぜん優しくないし、でも自分だけには特別なんだって・・・そう、アリオスは女の子に「私だけに優しくしてくれる」って思わせる魅力があって、悔しいけど、そりゃあ、モテるんだろうなって思う。それはちゃんと認めてる。

でも、私だって「私だけ」って思っていたいのに・・・。


「おい、いい加減にしろよ、風邪ひくぞ」

アリオスが私の腕を掴んだ。
でも私だって今日は負けないんだから。

「いいのよ」
「何がいいんだよ」
「だから、風邪ひいたっていいって言ってんの」

私はアリオスを思いきり睨み付けてやった。
少しは反省しろ、鈍感アリオスめ。

「アンジェ、ったく、お前なぁ・・・はぁぁぁ〜」

はぁぁぁ〜ですって??
ちょ、ちょっと・・・ため息付いた?
何で私がため息付かれなきゃいけないわけ??


「私が何なのよっ?」
「だからさっきから一体何怒ってんだよ・・・いい加減にしろよ。」

アリオスの顔がちょっと怖い。いや、かなり怖い。
でも、言う時はビシっと言わなきゃね。女がすたるってもんだわ。

「本気で聞いてるの?アリオス?」
「ああ、本気だぜ。俺がお前を怒らせるようなことでもしたか?」
「ええ、したわよ!つーかね、いっつもしてるのよ!」

アリオスが何か言おうとしたけど、言わせたりしない。
いつも上手くまるめ込まれるんだから、今日こそ最後まで言わせてもらう。

「ねえ、アリオス・・・
ねえ、何で、いつもいつもデートの度に、どうして他の女の子と話するわけ?ああ?ああ、そう。相手から話しかけてくるから仕方ないって言いたいの?ふ〜ん・・・でも知り合いだから話しかけてくるんでしょう?そうだよねぇ?あのさ、私のいない時何してるのアリオス?だいたいね、アリオスが他の子と話してる時の私の気持ちがわかる?恋人だっていうのに、デートだっていうのに・・・・ただ横で小さくなって話が終わるのを待ってる私の気持ちなんてわかんないくせにッ」


・・・うっ・・・一気に喋ったら、少し疲れたのかな・・・なんかフラフラするかも。


「まあ、確かに、お前の気持ちはわかんねーけどよ、お前が嫉妬してるってのはよくわかったぜ」

アリオスが笑いを噛み殺しながら、私の顔を覗き込んだ。
笑ってる?どーしてだろうアリオスの顔がぼやけるよ。


「なあ、アンジェ」

なんだって笑ってんのよ?

「嫉妬しないですむようにしてやろうか?」

え・・・どういう意味・・・?

「もう、他の女の子とは口もきかないとでも言うの?無理にきまってる」
「まあ、それは無理かもしれねーけどよ」

やっぱりできないんじゃないのッ!!

「でしょう?」

でもな・・・と言いかけたアリオスがちょっと顔を赤くしたのが見えた。

「でもな・・・・結婚してやってもいいぜ」

え・・・?

今、結婚って言った?ねえ、アリオス結婚しようって言った?
本当?本当??本当???
アリオスの顔が赤い。私の顔はもっと赤いって思うけど、そんなことかまわない。
結婚しようって言ったよね!?夢じゃないよね。

本当はアリオスの言葉は、飛びついてキスしたいほど嬉しい・・・
でもすぐには返事してやらないんだ。
私、素直じゃないのかな・・・ちょっとだけイジワルしてみたい。
いつもいつも私をいじめるんだから、これくらいいいよね。

「え?今なんて言ったの?」
「くだらねえことしてんなよ、聞こえてたんだろ?」

ふふ〜ん。恥ずかしがっちゃって。

「ん〜結婚ねーどうしよっかなぁ。だって普通プロポーズって言ったら指輪とか渡して
『僕と結婚してください』って跪くのが定番っつーか・・・」


そんなことを、いい気になって、しかも自らポーズをとりながら言ってたら、足元がぐらついてた。
急に目の前からアリオスの「くだらねえ」とでも言いたげな、あのいつもの顔が消えた。
なのにアリオスの手が私の頬に触れた感触だけはしっかりわかって・・・・
冷たくて気持ちいい・・・・あー私もヤバイよね。多分、そうとう惚れてる。

「お前、赤い顔して何くだらねえこと言ってんだよ。俺がそんなことするわけねえだろ」

アリオス・・・ああ、アリオスの手が気持ちいい。

「っアンジェ、お前マジで熱あんじゃねーか、バカが」


んー?なあにアリオス・・・結婚ならしてあげてもいいよ・・・・
そんなに慌ててどうしたの?さっきのは冗談なのに、指輪なんていらないのに。
大丈夫だよ、アリオス、私お嫁さんになるから、アリオスとしか結婚したくないもん・・・・













「んん?・・・あれぇ、アリオス・・・?」
「・・・・ちっ・・・」

甘い気分で目を覚ますと、目の前のアリオスの睨み付けるような瞳とぶつかった。
・・・ここは・・・・私の部屋だよね・・・・あれ?

「あ、アリオスさん・・・あの、えっと、私は・・・?」
「お前バカか?本当に風邪ひいてどうすんだよ」
「だって・・・・」
「だってじゃねえ、じゃあ俺は帰るからな」
「あ、待ってよ・・・」

ドアに向かって歩きかけたアリオスが振り向いた。
怒ってるような、よくわからない顔をしてる。

「・・・・んだよ、まだ何か用か?」

「私、倒れたのかな?」
「ああ、そのようだな」
「じゃあ・・・アリオスがここまで運んでくれたんでしょう?あの、ありがとう・・・」
「別に、俺も悪人じゃねえからな。じゃあな、とっとと寝ろよ」
「ああ、待って・・・・」
「アンジェ・・・お前、まだ喋る気かよ、早く寝ろ」
「あの・・・あと一つだけ・・・あの・・・確かさっき結婚しようって・・・・」
「ああ?お前熱出して妙な夢でも見てたんじゃねえのか?つーかよ、もういい加減に寝ろよ。俺は今度こそ帰るからな」

アリオスはククッと喉の奥で笑うと、私の声を無視して出ていっちゃった。



「あーあ・・・」

私はドスンと、音が出るほど思いきりよくベッドに体を沈めた。


ゴチッ!


「痛っ」

頭に何かぶつかった?何で?どうして?

「ッ痛っいなーもうー何なのよー」

手で枕元を探ると、小さな箱が指先に触れた。
アンジェへ・・・と、小さく私の名前の書いてるカード。
急いでリボンと解いて箱を開ける。小さな小さな石が輝いていた。


あ・・・・・・これ・・・・・


私はアリオスが帰る時に見せた、あのバカにするような笑いを思い浮かべながら「バーカ」と一つつぶやいた。

そして


「アリオスのバーカ」


もう一度、今度は声に出して言ってみた。
何度もバーカ、バーカってつぶやきながら、左手の薬指にある石の感触を確かめて、少し笑った。







ページを閉じます