「神子様、頼久が参っておりますわ」

毎朝毎朝、変わらず龍神の神子へのお迎えを欠かさない頼久。
「おはようございます、頼久さん今日も宜しくお願いしますね」
語尾にハートがつきそうな嬉しげな声で頼久にあいさつするあかね。
もちろん頼久も嬉しそうである。
「じゃ、天真くんと三人で行きましょう」
「はい」
ここ最近決り文句の様になった会話をして天真に同行を願うが・・・今朝は。


「わり!俺今日はだめなんだ」
片手で拝む仕草をして、顔をしかめている。
「え?ダメなの?」
「ああ・・京を散策してるうちにダチが出来たんだが、そいつにちょっと頼まれ事されちまってさ」
「ふぅ〜ん・・。天真くんて意外と面倒見いいもんね。しょうがない!今日は頼久さんと友雅さんの三人で行ってくる」
「意外だけよけいなんだよ!」
殴る素振りの天真から「きゃ〜」と言いながら頼久の背中に隠れて、あっかんべーをするあかね。
「天真!神子殿に無礼だぞ」
と、以前なら眉間に皺を寄せて厳しい声で口にした言葉を半ば笑顔で言うようになった頼久に
「へいへい〜本気で殴りゃしねぇよ。さ、行ってこい!」
バシッと相棒の背中を叩いて送り出した天真だったが(あいつも変わったよな・・・いい変化なんだが、俺はもう付き合えねぇ・・悪く思うなよ)と心の中で呟いていたのをさすがの「龍神の神子様」も気づかなかった・・。


それから二週間程たったある朝。
「ねぇっ!天真くんてば!呼んでるんだから、ちゃんとこっちを向いてよっ!」
あかねの声が響きわたる。
「何だよ・・俺は忙しいんだって言ってるだろ?」
今日も同行は出来ないと告げたかと思うと、あかねの部屋からずんずん遠ざかっていく天真に、やっとの事で追いついたあかねが天真の腕を掴んでゆさぶる。
「そんなのおかしいよ!ここ最近ずっとじゃない!どうして一緒に出かけてくれないの?」
「おかしいとは何だよ。別に俺がいなくても頼久がいるし他にも八葉はいるだろうが」
「だって・・・他の皆もなんだもの・・・最近色々忙しいらしくて一緒に出かけてくれないし」
しょんぼり項垂れて「私何か悪いことしたのかな・・」と呟くあかねを見ないようにしていた天真だが、盛大にため息をついた後「分かったから・・とにかく八葉全員集めろ。藤姫にも来てもらえ」と言う天真に、不思議そうな顔をするあかねだが、質問すれば天真が怒りだしてしまいそうな気がして慌てて藤姫を呼びに行った。


さて───
全員が揃ったところで、あかねが恐る恐る口を開く
「あの・・皆さん最近なかなか一緒に出かけてくれませんよね・・理由・・聞かせてもらえませんか」

しーーーーーーーん・・・

「あのっ!私に悪いところがあるなら言って下さい!私・・・私が悪いなら改めますから・・」
涙ぐんでしまうあかねの側により「神子殿・・神子殿に悪いところなどございません。どうかお泣きにならないで下さい」そっと肩に手を置く頼久に縋るような視線を向けるが「だって・・・」と又涙ぐんでしまう。
「天真、何故神子殿を悲しませるような行いをするのだ。理由によっては許さぬこともない」
と言いながら、決して許してなどやらないという顔をしてあかねの肩に置く手に力を込める頼久。
誰か何とか言えよ・・八葉の顔を見回すが、天真と視線が合いそうになると逸らしてしまう。
「天真殿、このままではお役目に支障をきたします。どうか、何が問題なのか仰ってくださいませ」
だんまりを決め込む八葉と、神子様命の藤姫に迫られて────
とうとう天真の堪忍袋の尾が切れた。
「だーーーーーっ!もう我慢できねぇっ!そんなに理由が聞きたきゃ言ってやる!こいつはなぁ・・こいつらは!!」
昂奮の為か、ふるふると震える指であかねと頼久を指差して額にしっかり「怒りのマーク」つけて
すぅっっっと息を吸い込み!!
「戦闘中にいちゃいちゃしやがるんだよっっっ」
思い切り怒鳴ったせいか、ぜいぜいと肩で息をしながら、なお2人を指差したままの天真。
「なっ!何言ってんのよっ/////・・・そんなことないもん!」
「天真!!言うに事欠いて『いちゃいちゃ』とは何をっっ!!!」
2人して思い切り否定するが、天真の背後で
「「「「「はぁ〜・・・・」」」」」「・・・・・・・・・?・・」
同情とも同意とも取れるため息が五つと、今ひとつ分かっていないような疑問符付きの沈黙が落ちた。
「天真殿・・落ち着いて下さいませ。」
「神子様は、この京のために日々頑張って下さっているのです。ですのに八葉である天真殿がそんな事を仰っては・・・」
「それじゃあ何か?!俺が怠けるために嘘ついてるとでも言うのかよ!」
赤い顔したあかねと青い顔した頼久と・・・昂奮する天真プラスそれぞれあっち向いた5人の八葉と、1人無表情の八葉・・9人の顔を見渡して、なんとかしようと頑張る藤姫だが天真の発言に言葉が詰まる。


「やれやれ・・・」
パチン!と扇を鳴らして、友雅が藤姫と天真の間に割り込む。
「その様に怒鳴っては、藤姫が嘆くばかりだよ。」
「俺は嘘は言ってねぇっっ!」
「あぁだから怒鳴るのではないよ。私は・・いや、誰も君の言葉が『嘘』だとは言っていないだろう?」
さり気なく耳を抑えながらちらり・・・とあかねと頼久に視線を投げかける友雅。
「友雅さん!私っ・・・」
「神子殿・・・いろいろ言いたい事はおありだろうが今は黙っていただけるとありがたいのだけれどね」
「友雅殿!神子殿に無礼ではありませんか!」
気色ばんで友雅に詰め寄る頼久を扇で押し戻し
「はいはい、頼久。当然、君にも黙ってほしいんだがね」
にっこり笑いながら有無を言わせぬ友雅に、不承不承ながら黙る頼久とあかね。
「さて、天真。こうして2人が静かになったんだ。言いたい事は全部言ってしまいなさい」
「あ?・・お、おうっ」
「まず!こいつは俺をまともに応援しやがらねぇ!『天真くん頑張って』それだけだ」
「応援してるじゃない!」
「それっきりじゃねぇかっ!」
瞬間にらみ合う天真とあかねの間に、今度は鷹通が割り込む。
「神子殿・・今は事実の検証をしなければなりません。お気持ちは分かりますがどうかお静かに」
「鷹通さん・・・」
真面目な鷹通にそう言われると黙るしかない。
「さ、天真殿先をどうぞ」
「そ、そうだな」
「俺が怨霊に攻撃されてもギリギリになるまで回復符使わねぇし!使っても小回復だし!
穢されても撫物使わねぇしっ!せっかく覚えた術だって、ほとんど使わせてくれねぇっっ!」
これで、不満がない八葉なんかいるかーーーーーーっっと・・・吼えた天真を誰も諌めない。
それどころか
「天真〜他にもっと言いたいことあるんじゃねぇの〜?」
頭の後ろで両手を組みながらイノリが言う。
「そうだよ天真先輩!この際、言いたい事は全部言っちゃわないとこれから先上手くいかないよ!」
ねっイノリ君♪と普段から温厚で争いを嫌う詩紋まで天真を支持する。
「おまえら・・何時の間にそんな仲良くなったんだ?」
「え、ボク達ずっと前から仲良しだよ」
「そーだよっ天真が知らないだけだぜ?なぁ詩紋!」
がしっと肩を組み合う天地の朱雀を胡散臭げに見つめて、どうしたものかと思案する天真に
「あの・・・天真殿・・・お話は・・まだ終わっていません。ど、どうぞ続きを・・」
イノリと詩紋の後ろから、控えめに声をかける永泉・・・。
(はぁ?永泉までなんだってんだ?)
「まぁいい・・・とにかくこいつらに最後に言ってやりてぇのは!」
気を取り直し改めて頼久とあかねに向き直り、びっ!と指差し・・・
「闘ってるっていうのに!何度も見つめ合うって事だーーー!」
「なっなっ何よ!そんなに何度も見つめあったりしてないもん」
「そうだ天真、たまに目が合う程度だ」
真っ赤な顔をして、思い切り否定する二人に冷たく天真が言い放つ。
「事実じゃねぇか」
「「うっ」」と詰まる頼久とあかねを
「天真殿。たとえそれが真実であろうとも神子様がお役目を立派にはたされている事も、又事実です。
そのように責めたてるのはいかがなものでしょう」
藤姫が援護するが
「ただねぇ・・私達他の八葉もいるのだよ?微笑ましいとは思うがそれで済まない場合もあるのではないかい?」
「そうですね。雑魚相手なら兎も角、強力な怨霊相手では少しの油断が命取りとなります」
「友雅殿?!鷹通殿?!」
おろおろと2人の顔を見つめる藤姫にかまわず
「そう思うだろう?」と畳み掛ける友雅。
「それによぉ俺だって一生懸命なんだぜ?そりゃ多少の怪我くらい平気だけどよ。
ちったぁ労わってくれたってバチは当たんねぇと思うけどな」
「イノリ君だって怪我をすれば痛いよ!早く治してあげて欲しいんだ・・・。優しいあかねちゃんなら分かってくれるでしょう?」
先程と変わらずイノリに肩を組まれながら、胸の前で手を組みおねがいポーズの詩紋。
「あの・・・数ならぬ身のわたくしですが帝の御為にも、出来る事があれば精一杯努めたいのです・・・」
普段、意見らしい意見を言わない永泉にまで言われて、ショックのあまりくらり・・とよろめく頼久とあかね・・
しかしこんな時でもお互いを支えるような形になってしまい、それを見た天真はこれだけは言うまいと思っていた言葉を吐く・・・
「馬鹿か・・・おまえら」
「ば・・馬鹿とは何よ馬鹿とは!」
「俺だけじゃなく、こいつらだって言ってんじゃねぇか!これだけ聞いてもまだ自覚できねぇのかよ!!」
「天真!神子殿に当たるな!・・・神子殿を傷つけるなどたとえ真の友と言えども許せぬ!」
今にも刀を抜きそうな、事実柄に手をかけて睨みあう頼久と天真を止めよう・・とするのはあかねと藤姫だけである。
「そんな・・そんなに私達いけない事してるの?」
半ば呆然とあかねがぽつんと呟いた。
「だって・・・頼久さん無茶するんだもの。『神子殿のため』とか言って自分を盾にしてまで私を庇うんだもの。
そんなの嫌ですって、何度言っても『使命ですから』って・・・」
胸の前で手を組み、俯きながら話すあかねの声が段々大きくなっていくのを、皆黙って見つめている。
「誰よりも先に危険に身を晒すんだよ?!怪我だって誰より多いし深いの!そんな人放っておける?
頼久さんの怪我は私のせいなのに!私には出来ないもの!」
さっと顔を上げたあかねの目には涙が光って
「大好きな頼久さんが、私の為に傷ついてるのに何もしないなんて絶対に嫌なのっっ!」
叫ぶと同時に頭を振るあかねの周りにキラキラと涙の粒が光る・・・・。
いやなの・・・いやなの・・・呟きながら手で顔を覆って本格的に泣き始めたあかねの肩にそっと手を置く頼久。
「神子殿・・・申し訳ありません。そんなにも私を想って下さるとは・・。
ですが、私は武士です。身を守る術も心得ております。お守りすべき方に守って頂いているとは赤面の至り・・・」
しかし・・・と滅多になく顔を赤くしてそっと頼久が続ける
「愛しい方にそう思っていただけるのは望外の喜びです・・・・」
頼久さん・・・・・・・・・・・・・と最早、他の八葉も藤姫さえも忘却の彼方に押しやって見詰め合うあかねと頼久──
はぁ〜と盛大なため息で、はっと我に返ると天真が・・げんなりとした表情で2人を見ている。
「ててて、天真くん!いたの?」
驚いた拍子に抱き合ってしまうあかねと頼久にさらにげんなりしながら
「・・・・・いたの?じゃねぇよ・・おまえら」
天真が続きを口にしようとした時
「問題ない」
今まで黙っていた泰明が初めて口を開いた。
「も、問題ないだとぉ?!」
今度は泰明に詰め寄る天真を冷静に見つめ返す泰明。
「そうだ問題ない。頼久と神子が見つめあえばそれだけ気が増幅する。そうなれば私は援護すれば良い。
効率的に怨霊を倒す事も、封印することも可能だ。」
「それで良いのではないのか」真顔で問う泰明に開いた口が塞がらない天真。
「お、おまえだって怪我するだろうが!穢れにあたっちまう事だってあるだろう!どこがいいんだよ!」
「八葉は神子の道具、怪我などどうとでもなる。それより怨霊にどう対するかが問題だ」
「そ、そのとうりですわ!道具云々はともかく、神子様の良いようにして頂くのが一番です!」
強力な味方を得た藤姫がここぞとばかりに力説する。
泰明と藤姫の言葉に納得がいったようないかないような顔で、再びあかねと頼久に目をやれば
相変わらず抱き合ったまま、固まっている。その2人を見る天真の瞳が、ふ・と優しくなった。
「・・・・も、いい。分かったよ。好きにすればいいさ・・・俺はもうなんも言う事はねえ」
くしゃっと髪を掻きながら言う。
「天真くん、怒ったの?」
心配気に声をかけるあかねに
「いや、怒ってねえよ。」(さっきまでは怒ってたけどな)と心の中でつぶやき
「んじゃっ!解散っつーことでいいよな!どっちにしろこんな時間からじゃ何も出来やしねぇし俺は休むわ!」
「明日は一緒してくれるよね?」と声をかけるあかねに
「わーかってるって!じゃあな!」
後はよろしく〜とヒラヒラと手を振りながらさっさと退室していく天真の背中を見送りながら
「やれやれ・・自分だけスッキリしたようだねぇ」
友雅が言う。
「友雅さん?・・・は怒ってます?まだ・・・」
「いや、私は最初から怒ってなどいないよ。そもそもそんな情熱さえあるのか怪しいしね」
いたずらっぽくウィンクしながら
「私は、私達は誰も君を怒ってなどいない。ただ・・・幸せであって欲しいと願うばかりだよ。この京の為に必死でいる君がね。」
そうだろう?と鷹通を振り返る友雅の目は限りなく優しい・・・
「ええ、そうですとも。」
「頼久、私達も持てる力の限り神子殿に尽くします。ですから必要以上に無理をする事はありません。
どうか仲間がいる事を忘れないで下さい」
友雅と鷹通の言葉に頷く他の八葉達──
「ごめんなさい。有難う」
謝罪と感謝の言葉を口にするあかねに優しく微笑みながら
「頼久、神子殿は・・・頼んだよ」
そう言い置いて友雅が出て行く。
それを合図の様にして皆が退出していく・・・。
瞳を潤ませて精一杯頭を下げるあかねと頼久であった。


後日───

隠していたつもりの互いの気持ちをさらけ出した為か、はたまた独り者を刺激してはいけないと思ったのか定かではないが──
以前より、「戦闘中」にはラブラブ度の少なくなった2人。
しかし、それ以外の時は常に2人一緒にいるようになり・・・以前の方がマシだったか・・と誰かが思ったとかなんとか・・・・。
それすらアウトオブ眼中の2人であった。


fin――ちゃんちゃん





>『頼久と神子が甘甘で他の八葉があきれかえる』・・・表向きは【頼久・あかね創作】のリクエストに見えますが、その浦では『八葉全員出てくる創作!』という、めっさ大変なリクに快く応えてくださった慈雨様!ありがとうございます!天真はこういう役似合いますよねー!!また、とんでもないリクエストをするかもしれませんが、よろしくお願いしますv(shie)

慈雨様のwebサイト[ソレイユ]はこちらです。